「懲戒処分等の量定に関する最高裁判所の判断」

 ハラスメント事案に関する処分について高等裁判所が裁量権逸脱とした判断を最高裁判所が破棄する判決が今年に入り立て続きました。6月14日判決(氷見市(消防職員停職処分)事件)と9月13日判決(長門市(消防職員分限免職処分)事件)です。どちらも公務員関係における事案ですが、私企業が懲戒処分等を検討する際にも参考になるものと思われます。

 
 まず、6月14日判決(氷見市(消防職員停職処分)事件)は、暴行・暴言等に対する停職2か月の懲戒処分(第1処分)と、第1処分の審査請求中に、暴行・暴言等の被害者に対して審査請求手続での懲戒処分が軽くなるよう隠蔽工作を働きかけたり圧力をかけたりした行為に対する停職6か月の懲戒処分(第2処分)がなされ、このうち第2処分について、高等裁判所(名古屋高裁金沢支部令和3年2月24日判決)は、隠蔽工作等の動機や態様はそれなりに悪質だが、業務復帰後に同種行為が反復される危険性等を過度に重視することは相当ではなく、第1処分の停職期間を大きく上回り、かつ停職期間の上限である6か月とするのは重きに失するとして取り消しました(なお、第一審判決(富山地裁令和2年5月27日判決)は、第1処分・第2処分ともに適法としていました)。これに対し、最高裁は、第2処分にかかる行為は、「懲戒の制度の適正な運用を妨げ、審査請求手続の公正を害する行為というほかなく、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に明らかに該当することはもとより、その非難の程度が相当に高いと評価することが不合理であるとはいえない」、また、第1処分の停職期間中に第2処分の対象行為がなされており、第1処分における非違行為について何ら反省していないことがうかがわれることにも照らせば、第1処分の非違行為である暴行・暴言等と同種の行為が反復される危険性があると評価することも不合理であるとはいえないとして、第2処分についても、懲戒権者の裁量権の範囲内としました。

 
 次に、9月13日判決(長門市(消防職員分限免職処分)事件)は、部下約30人に対して暴行、暴言、卑猥な言動等の約80件のハラスメント行為を行った消防職員(小隊長)に対する分限免職処分(私企業における普通解雇に相当するものです。なお、被処分者に懲戒処分歴はありません。)について、高等裁判所(広島高裁令和3年9月30日判決)は、消防組織では公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、ある意味で開放的な雰囲気が従前から醸成されていたこと等の独特の職場環境があり、それを背景とするハラスメント行為は、単に被処分者個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等にのみ基因して行われたものとはいい難いとして免職処分を取り消した第一審判決の判断(山口地裁令和3年4月14日判決)を支持していました。これに対し、最高裁は、様々な態様のハラスメント行為が5年を超えて約80件も繰り返され、被害者は約30人にも及び、長門市の消防職員全体の半数近くを占めていることから、「長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき、公務員である消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることが不合理であるとはいえない。また、本件各行為の頻度等も考慮すると、上記性格を簡単に矯正することはできず、指導の機会を設けるなどしても改善の余地がないとみることも不合理な点は見当たらない」等として、「免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても」分限免職処分は違法とはいえず、「このことは、上告人(長門市)の消防組織において上司が部下に対して厳しく接する傾向等があったとしても何ら変わるものではない」としました。

 
 どちらの事件も、ハラスメント行為の悪質性は顕著であり、相応に厳しい処分とすること自体には異論の生じないところと考えます。そのような中で、どの程度厳しい処分が許されるのかの判断は、実務上も悩ましいことが少なくありません。この2件の最高裁判決は、企業におけるハラスメント事案への厳正な対処を後押しするものといえ、厳しい処分の組み立て方に関し非常に参考になります。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※令和4年6月14日最高裁第三小法廷判決(氷見市(消防職員停職処分)事件):こちら

 

※令和4年9月13日最高裁第三小法廷判決(長門市(消防職員分限免職処分)事件:こちら

 

■弊社発行の「労働判例ジャーナル126号(2022年9月)」注目事件に「氷見市(消防職員停職処分)事件」を掲載こちら

 

(2022年10月19日)

 

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