「職場のハラスメントに関する実態調査」

 厚生労働省の令和2年度委託事業として2020年10月に実施された職場のハラスメントに関する実態調査の報告書が本年4月30日、公表されました。この実態調査は、平成24年度、平成28年度に続き、4年ぶりに行われたものです。

 

 この調査は、企業と従業員双方に対して行われており、企業向け調査では、全国の従業員30人以上の企業・団体計24,000件に対し調査票を郵送する方法により行われ(回答はWebでも受付)、回収数は6,426件(回収率26.8%)でした。労働者向け調査では、調査会社の調査協力者パネルを使用した一般サンプル検査(サンプル数8,000名)及び特別サンプル検査(女性の妊娠・出産・育児休業等ハラスメント[サンプル数1,000名]、男性の育児休業等ハラスメント[サンプル数500名]及び就活等セクハラ[サンプル数1,000名])がインターネットを通じて行われました。

 

 このうち、男性の育児休業等ハラスメントに関する調査は、過去5年間に勤務先で育児に関わる制度を利用しようとした男性労働者を調査対象として行われ(回答者の年代は30代が44.2%、40代が50.2%)、ハラスメントを「何度も繰り返し経験した」が2.0%、「時々経験した」が7.6%、「一度だけ経験した」が16.6%との結果となりました。ハラスメントを受ける要因となった理由・制度は、最も多かったのが「育児休業」(49.6%)、続いて「育児のための残業免除、時間外労働の制限、深夜業の制限」(38.9%)で、ハラスメントを受けて利用をあきらめた制度も、これらが順に最多となりました(前者が42.7%、後者が34.4%)。ハラスメントの行為者は、上司(役員以外)が66.4%、会社の幹部(役員)が34.4%でした。

 

 就活等セクハラに関する調査は、2017~2019年度卒業で就職活動(転職を除く)又はインターンシップを経験した男女(男性47.6%、女性52.4%)を対象に行われ、このうち、セクハラを「何度も繰り返し経験した」が3.7%、「時々経験した」が5.9%、「一度だけ経験した」が15.9%でした。受けたセクハラの内容は、男女ともに「性的な冗談やからかい」が最多、次点は、男性は「性的な事実関係に関する質問」、女性は「食事やデートへの執拗な誘い」で、受けた場面は、男性は「企業説明会やセミナーに参加したとき」、女性は「インターンシップに参加したとき」が最多となりました。

 

 男性の育児休業については、先日成立した育児介護休業法の改正により、取得促進に向けた動きが加速しているところではありますが、男性が利用しづらいと感じている制度は育児休業に限らないため、育児と仕事との両立のための各種制度にどのようなものがあるか等を、管理職層も含めて職場全体に改めて周知していくことが重要となるでしょう。

 

 就活等セクハラに関しては、先日、ある企業がそれを理由とする懲戒解雇が行ったことを公表したことが記憶に新しく、企業にとって大きなダメージをもたらすものであることを再認識する機会となりました。今回の調査からは、具体的にどのようなセクハラを受けたのかまでは読み取れませんが、女性だけでなく男性も被害に遭っている点を看過しないようにしなければなりません。

 

 このほか、企業向け調査では、従業員からの相談件数は、セクハラについては一定の減少傾向がみられた一方で、パワハラだけでなく顧客等からの著しい迷惑行為についても多数の相談が従業員から寄せられており、企業としての対応の必要性が読み取れます。

 

第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

※令和2年度報告書(概要版):こちら

 

※令和2年度報告書(全文):こちら

 

(2021年6月29日)

 
 
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