「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」

2017年3月に策定された働き方改革実行計画において副業・兼業を普及促進していくとの方向性が示されたことを受けて、厚労省は「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」を設置しました。2018年7月より議論を重ね、現在、報告書案の最終とりまとめが行われています(直近では2019年7月25日に9回目を開催)。
副業・兼業の場合の労働時間管理に最も大きな影響を及ぼしているのは、労働基準法38条が「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めている点です。この「事業場を異にする場合」には、同一使用者の下で事業場を異にする場合だけでなく、別の使用者の下で事業場を異にする場合も含むというのがこれまで一貫した行政解釈及び通説でした。働き方改革関連法に関する行政通達においても、労働基準法36条6項による単月100時間・複数月平均80時間との上限規制は、「労働者が、自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合には、その使用者が当該労働者の他社での労働時間も適正に把握する責務を有して」いることを前提に、「労働基準法第38条に基づき通算した労働時間により判断する必要があること」とされています(平成30年9月7日基発0907第1号)。これは、労働者の健康の保護を目的として、労働者単位で労働時間規制を課すべきとの理由によるものです。
しかし、他社での実労働時間の把握は困難かつ実効性に疑問があり、また、副業・兼業する労働者の側のプライバシーへの配慮も必要となります。そのため、使用者を異にする場合の労働時間の通算制の存在が、労使双方にとって副業・兼業(特に副業・兼業先でも雇用される形態)の妨げになっている実態があることから、労働者の健康には引き続き配慮しつつも、通算制を一定の範囲で見直す方向も含めた議論が検討会においてなされてきました。
現在公表されている報告書案では、主に、①健康管理、②労働時間の上限規制、③割増賃金、④副業・兼業先の労働時間の把握方法の4点について、検討会での議論の状況が整理されていますが、通算制を見直しつつも、いかにして健康確保に向けた規制を課すかについての一致した方向性は見いだせていない様子が窺われます。
(五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子)

 

(2019年8月8日 更新)

 

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