労働安全衛生法の改正-個人事業者の安全衛生対策、ストレスチェック義務化など

 前回のコラムでは労働安全衛生規則の改正についてご紹介しましたが、今回は労働安全衛生法の改正を取り上げます。

 
 「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」が本年5月8日に衆議院で可決成立し、5月14日に公布されました(令和7年法律第33号)。

 
 改正法の目的は、多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進することにあり、主に、①個人事業者等に対する安全衛生対策の推進、②職場のメンタルヘルス対策の推進、③化学物質による健康障害防止対策等の推進、④機械等による労働災害の防止の推進等、⑤高齢者の労働災害防止の推進等の改正を行うものです。

 
 このうち、まず、①個人事業者等に対する安全衛生対策の推進は、具体的には、労働安全衛生法上、個人事業者を「事業を行う者で労働者を使用しない者」と定義付け(法人である場合は、その代表者又は役員が該当)、主に労働者と個人事業者が同じ場所で就業する場合(例えば、建設、造船、製造、荷の搬入・搬出作業、機械・設備のメンテナンス作業等)について、注文者等による措置や個人事業者自身が講じるべき措置を整備するものです(ほぼ全て2026年4月1日に施行)。個人事業者に関しては、厚生労働省が2024年5月に自主的な取組みの実施を促す目的で「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」を策定していますが、その内容の一部が今回、法に取り込まれた形です。

 
 ②職場のメンタルヘルス対策の推進は、現在、労働者50人未満の事業場ではストレスチェックの実施が当分の間、努力義務とされていますが、これを義務に格上げするものです(公布後3年以内に政令で定める日に施行)。

 
 ⑤高齢者の労働災害防止の推進等の改正は、具体的には、高年齢者の労働災害の防止を図るため、事業者に対し、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるよう努力義務を課すものです(2026年4月1日に施行)。具体的な内容は、今後指針で示される予定です。

 
 ストレスチェックの完全義務化の施行が3年程度先となっているのは、50人未満の小規模事業場の負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保することにあります。今回の法改正の前提となった労働政策審議会(労働衛生分科会)による建議(2025年1月17日付け「今後の労働安全衛生対策について」)は、労働者のプライバシー保護の観点から、原則として外部委託を推奨すること、労働基準監督署へのストレスチェック実施結果の報告義務は、一般定期健康診断と同様、50人未満の事業場には負担軽減の観点から課さないことが適当とされ、国は、小規模事業場での円滑な施行に資するよう、現実的で実効性のある実施体制・実施方法についてのマニュアルの整備や、高ストレス者の面接指導に無料で対応している地域産業保健センターの体制整備を行うべきとしています。

 
 ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調を未然に防止する一次予防を強化する観点から2015年12月に導入されました。労働者自身のセルフケアを促進し、職業性ストレスの要因を測定するものとして有用で、企業実務にもかなり浸透していることを実感します。小規模事業場においてもメンタルヘルスケアの重要性に変わりはありません。建議が言及しているように、どのようにして労働者のプライバシーを保護しつつ現実的で実効性あるものとするかについて、今後のさらなる議論の動向を見守りたいと思います。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

~参考資料~
 
※厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案の概要」:こちら

 
※労働政策審議会建議「今後の労働安全衛生対策について」(2025年1月17日公表):こちら

 
※第170回(2024年11月6日開催)労働政策審議会安全衛生分科会資料「ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策について」:こちら

 
※厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドラインの策定について」(2024年5月28日):こちら

 

(2025年05月30日)

 
 

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