熱中症予防対策の強化-労働安全衛生規則の改正
4月になりました。が、4月の春らしい気候は長くは続かず、4月下旬にさしかかり、既に蒸し暑い日が多くなってきたように感じます。今年の夏も、いや、夏を迎える前から、暑い日が多くなりそうですが、そのような中、労働安全衛生法の「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」(同法20条以下)に関する労働安全衛生規則(同法27条1項に基づく省令)が改正され、この度公布されました(令和7年厚生労働省令第57号)。本年6月1日施行です。
この改正は、熱中症のおそれがある労働者を早期に見つけ、その状況に応じ、迅速にかつ適切に対処することにより、熱中症の重篤化を防止するため、事業者に体制整備、手順作成及び関係者への周知を義務付けるものです。具体的には、労働安全衛生規則「第5章 温度及び湿度」の最後に第612条の2(熱中症を生ずるおそれのある作業)として、以下の規定が加わります(以下の引用中の下線は筆者が付けたものです)。
第1項 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。
第2項 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。
この体制・手順整備義務の対象となる「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは、後掲の厚生労働省作成のパンフレットによれば、具体的には、「WBGT28℃以上又は気温31℃以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間を超えて実施することが見込まれる作業」とのことです。WBGT(暑さ指数:Wet Bulb Globe Temperature)とは、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案されたもので、気温に加え、湿度、風速、輻射(放射)熱を考慮した暑熱環境によるストレスの評価を行う指数です。
厚生労働省によると、2021年以降、職場における熱中症による死傷者数は増加の一途を辿っており、2024年は、本年1月段階での速報値では、1195人(うち死亡は30人)でした(なお、2021年は561人(うち死亡は20人)でした)。業種別では、建設業や製造業で多くなっています。このような状況も踏まえ、厚生労働省では、本年5月1日から9月30日までの間、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施予定です。
後掲の厚生労働省ポータルサイトにも熱中症予防に向けた様々な情報が掲載されていますので、ぜひ参考にしていただき、今年の暑さに早めに備えていただければと思います。
~参考資料~
※厚生労働省令第57号「労働安全衛生規則の一部を改正する省令」(令和7年4月15日):こちら
※厚生労働省パンフレット「熱中症対策の強化について」:こちら
※厚生労働省ポータルサイト「職場における熱中症予防情報」:こちら
※厚生労働省令和7年2月28日制定「令和7年『STOP!熱中症 クールワークキャンペーン』実施要綱」:こちら
※環境省Webサイト「熱中症予防情報サイト」-「暑さ指数(WBGT)について」:こちら
________________________________________________________
当コラム担当の町田弁護士による講演のご案内
★改正法に対応した実務のポイントをコンパクトにまとめて確認します。この機会にぜひご受講ください
労働法学研究会・例会第2959回『改正育児介護休業法への実務対応ポイント総まとめ』
町田先生には昨年12月に育児編と介護編の2回に分けて詳細解説いただきましたが、今回はその後に厚労省から公表された新たな資料等をフォローし総解説いただきました。