「労働条件明示のルール変更への備え」

 労働基準法施行規則(以下「労基則」)と「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(以下「告示」)が改正され、これらが施行される2024(令和6)年4月1日以降に締結される労働契約より、契約締結時(有期契約の更新時を含みます。)の労働条件明示事項等が追加されます(なお、契約期間の始期ではなく、文字通り、契約の締結日が施行日以後となる労働契約について適用されます。)。厚生労働省は、本年10月にパンフレット「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」を公表し、また、「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A」も公表されましたので、そろそろ準備を始めておきたいところです(労働開発研究会開催のセミナー・研究会もぜひご活用ください)。

 
 主な改正内容は、まず、全ての労働者について、①契約締結・更新時の、就業場所と従事すべき業務の変更の範囲の明示(労基則改正)です。次に、全ての有期労働契約者について、②契約締結・更新時の、更新上限がある場合のその明示(労基則改正)、③更新上限を新設・短縮する際の事前説明の実施(告示改正)です。最後に、無期転換権が発生する(又は発生している)有期労働契約者について、契約更新時の、④無期転換申込み機会及び無期転換後の労働条件の明示(労基則改正)、⑤無期転換後の労働条件について均衡を考慮した事項の説明(告示改正、これは努力義務)、です。

 
 これらの改正は、重要な労働条件について、労使間の情報格差(認識格差)を無くし、労使が共通認識を持つことを目指すものと言えます。また、特に①に関しては、この明示により、契約締結後に使用者が行おうとする配転が、労働者の個別合意を有するものなのか、それとも、使用者が変更権限を有する範囲内のものなのかが明確化され、配転を巡る紛争の抑止に資するものといえます。

 
 就業の場所や従事すべき業務の内容は、既に労働条件の明示事項の一つですが、現時点では、雇入れ直後のものについて明示すれば足りるとされています(「雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足りるものであるが、将来の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明示することは差し支えないこと。」平成11年1月29日基発45号)。しかし、厚生労働省の労働条件通知書のひな形では、「雇入れ直後」の時点のものであることの注記がないことなどから、「就業の場所」欄や「従事すべき業務の内容」欄に書かれた内容について、将来的に変更があり得るのか、それとも、将来にわたりそれらの欄に書かれた内容に限定する趣旨であるのかについて、労使の認識が異なり、それが後に紛争の火種になることがありました。筆者自身、そのような紛争を経験したことがあり、その経験からも、今回の改正は望ましいものとだと考えています。

 
 もっとも、契約関係が長期にわたることが想定される場合に、変更の範囲を予め漏れなく明示することはそう容易ではありません。契約締結時点では具体化していない事業所の統廃合や子会社再編等も生じ得るところですから、出向の有無なども踏まえつつ、どのような明示をすべきか、また、明示は、個別の労働契約で行うのか、それとも、一部を就業規則で行うのか等について、事前に十分に検討しておく必要があります。厚生労働省のパンフレットでは、様々な明示例が掲載されていますので、会社の将来も見据えながら自社に相応しい明示の在り方を見出すことが求められます。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※労働条件明示のルール変更に関する厚生労働省のWebサイト:こちら

※厚生労働省作成パンフレット「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」:こちら

※厚生労働省公表「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A」:こちら

 

(2023年11月30日)

 
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