「フリーランス保護新法の成立」

 フリーランス保護のための新しい法律「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス新法」といいます。)が本年4月28日に成立し、5月12日に公布されました。公布日から1年6か月以内の政令で定める日に施行されます。フリーランスを保護対象とした初めての立法であり、このような法律が制定されたことの意義は大きいといえるでしょう。

 
 フリーランス新法の中では、「フリーランス」との用語は登場せず、「特定受託事業者」とされています。「特定受託事業者」の定義は、①個人であって従業員を使用しないもの、又は、②法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの、とされています。世の中で用いられている「フリーランス」との用語は、そもそも多義的ではありますが、従業員を1人でも使用している者は含まれないなどの点で、一般的にイメージするところの「フリーランス」とは必ずしも重なり合わないことには注意が必要です(なお、ここでいう従業員には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まれません。)。

 
 フリーランスに業務を委託する側、すなわち、発注者側のうち、従業員を使用する個人、若しくは、役員が2名以上いるか、又は従業員を使用する法人は、フリーランス新法の中で、「特定業務委託事業者」とされ、その者による、物品の製造、情報成果物の作成、又は役務の提供に関する業務の委託がフリーランス新法による規制の対象となります。

 
 フリーランス新法による規制は、主に、フリーランス(特定受託事業者)に係る取引の適正化と、フリーランスとして働く者(特定受託業務従事者)の就業環境の整備に分かれ、前者は、下請法と似通った内容で、公正取引委員会や中小企業庁が所管します。後者は、職業安定法(適正な募集情報の提供等に関して)、労働基準法(中途解除の30日前予告に関して)、及び育児介護休業法その他のハラスメント防止措置義務を定める法などと似通った内容で、厚生労働省が所管します。規制の中には、特定のフリーランスと継続的に取引を行う場合(これはすなわち、フリーランスの側から見れば、特定の発注者に対する経済的依存度が高い場合)にのみ課せられるものもありますので(例えば、フリーランスが育児介護等と両立して業務委託に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならないことなど)、施行までには、どのような取引においてどのような規制が課せられるのかを正しく理解することが重要でしょう。

 
 この先、施行までに、必要な指針等が策定される予定です。例えば、上述の、育児介護等との両立に関する必要な配慮としてどのようなことが求められるか、また、フリーランスに対するハラスメントに関する相談対応等の必要な体制整備として何をすればよいのかは指針によって示されます。このほか、「継続的」な取引であるかどうかはどのように判断するのか、であるとか、発注者側・フリーランス側それぞれについて、上述の、従業員の有無に関する要件の充足性は、互いに、一連の取引の流れの中で、いつの段階で、どのようにして確認すべきであるのか、また、取引開始後に状況の変化があった場合はどのような影響があるのか、さらに、相手方に対して虚偽申告がなされた場合はどうなるのか等についても、今後、指針や施行通達、Q&A等が作成されていくこととなると思われますので、それらについても要注目です。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(条文):こちら

 
※内閣官房Webサイト掲載「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)の概要(新規):こちら

 
※衆議院附帯決議:こちら

 
※参議院附帯決議:こちら

 
※フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営):こちら

 

(2023年5月31日)

 

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