令和7年度「過労死等の労災補償状況」の公表
本年7月15日、厚生労働省が令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表しました。厚生労働省は、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数(令和7(2025)年度中に労災保険給付の請求(いわゆる労災申請)がなされた件数)や、労災保険給付の支給決定件数(令和7年度中にいわゆる労災認定がされた件数。同年度中に労災申請されたものとは限りません。)などを、裁量労働制対象者や複数業務要因災害に係るものも含めて、毎年6月下旬から7月頃に年1回公表しています(以下では、裁量労働制対象者及び複数業務要因災害に関するものを除いて概要をご紹介します。)。
まず、請求件数に関しては、脳・心臓疾患も精神障害も増加傾向が顕著です。双方合わせて前年比で1402件増加し合計6212件となりました。増加した1402件のうち、脳・心臓疾患の増加分は224件、精神障害の増加分が1178件ですので、精神障害についての増加が特に顕著であることがわかります。支給決定件数は合計4692件で前年比377件増となりました。ただ、認定率をみると、脳・心臓疾患は直近5年度では令和4年度の38.1%をピークにその後は減少が続き、令和7年度は26.8%となりました。また、精神障害も同じく令和4年度の35.8%がピークでその後は減少が続き、令和7年度は28.2%となり、直近5年度で初めて30%を下回りました。
次に、支給決定件数の状況をみると、まず、脳・心臓疾患に関して注目されるのは、60歳以上の支給決定割合の増加です。請求件数の年齢別の傾向は例年とさほど変わりませんが、支給決定件数のうち、60歳以上が占める割合は約3割に達しています(令和6年度は2割弱、令和5年度は2.5割程度でした。)。次に、脳・心臓疾患は、精神障害以上に長時間労働と関連すると考えられていますが、時間外労働時間別支給決定件数を見ると、いわゆる“過労死ライン”と呼ばれる単月100時間・複数月平均80時間に到達していないものも多いことに留意が必要です。令和6年度で支給決定件数が多かった時間外労働時間区分は、多い順に、①80時間以上~100時間未満(80件)、②60時間以上~80時間未満(46件)、③100時間以上~120時間未満(40件)でした。しかし、令和7年度では、60時間以上~80時間未満が最も多くなり(53件)、次いで、80時間以上~100時間未満(49件)、100時間以上~120時間未満(48件)となっています。また、45時間以上~60時間未満も1件支給決定されています(令和6年度も同様)。このような状況からすると、「80時間に達していないから大丈夫」とは考えてはいけないことがわかります。また、労働時間以外の負荷要因(勤務時間の不規則性、移動を伴うかどうか、業務の心理的負荷・身体的負荷、作業環境(温度環境、騒音等)も考慮されることに十分留意すべきです。他方、支給決定された217件のうち、100時間以上のものが83件も含まれています(このうち160時間以上は15件です)。労働基準法の労働時間規制の遵守が今なお徹底されていないことが窺われます。
次に、精神障害について、まず、年齢に関しては、請求件数・支給決定件数ともに、20代から50代まで万遍なく分布しています(この中で最も多いのは40代です)。時間外労働時間数に関しても支給決定件数が突出しているところはなく、令和7年度で支給決定件数が最も多かったのは「20時間未満」となりました。出来事別の支給決定件数の動向に関しても、前年度から大きな変化は見受けられず、やはりパワハラ、セクハラ、カスハラ(顧客等からの著しい迷惑行為)が上位3位を占めています。ただ、認定率でみると、筆者が計算したところによれば、これらはいずれも50%強であるのに対し、「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」の認定率は、これらよりも多く68.2%となっている点に留意が必要です。他方、「上司とのトラブルがあった」や「同僚とのトラブルがあった」の認定率は非常に低くなっています(いずれも令和6年度・令和7年度を通じて5%未満)。
以上の状況を日頃の労務管理に役立てていただければ幸いです。
~参考資料~
・厚生労働省Webサイト「令和7年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」:こちら