カスハラ防止等措置義務の施行予定時期及び指針素案の公表

 本年6月の本コラムで、労働施策総合推進法等の改正法の成立を取り上げました。同法の改正内容のうち、カスタマーハラスメント関係、すなわち、事業主への防止等措置義務化及びそれに関する指針の制定や、国・事業主・労働者・顧客等の責務の制定については、公布日(本年6月11日)から起算して1年6月以内の政令で定める日に施行予定とされているところ、本年11月17日に開催された厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会(第87回)において、来年(2026年)10月1日施行とする方向性が示されました(なお、いわゆる就活セクハラに関する措置義務も同日施行見込みです)。また、事業主の防止等措置義務の具体的内容を定める指針の素案(職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案)も、同日の資料の一つとして公表されました。

 
 指針の素案によると、措置義務の骨格は、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるカスハラに係る事後の迅速かつ適切な対応、④職場におけるカスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置、⑤①から④までの措置と併せて講ずべき措置、となっています。このうち、①②③⑤は、セクハラやパワハラ等の既存のハラスメント類型と同様ですが、④はカスハラ独自のようです。④の内容は、指針素案では、「事業主は、職場におけるカスタマーハラスメントの抑止のための措置として、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならない。(以下引用略)」とされています。

 
 また、①②③⑤の内容に関して、一見、既存のハラスメント類型と似通っていますが、相談窓口の体制や、カスハラ発生又はその恐れがある場合の事後対応において、管理監督者等への言及が多い点は、カスハラ特有といえます。つまり、他のハラスメントでは、基本的に、現場ではなく、人事部門等の他部門が、いわば第三者的に介入・関与することで事態の対処に当たることが想定されていますが、カスハラの場合は、現場のことをよく知らなければ、カスハラに該当するかどうかの判断も含め適切な対処が難しい面もありますので、人事部門だけに対応を委ねればよいというわけではないと考えられます。他方で、管理監督者等任せにすることも避けなければならず、むしろ管理監督者等の負担への配慮も必要となりますから、会社全体としてカスハラの問題にどのような体制で臨むのかを十分に検討する必要がありそうです。

 
 このように考えると、カスハラに関しては、既存のハラスメントとは異なる体制整備も必要であり、いざカスハラ対策を始めてみると、社内の情報収集から始まり、意外と検討に時間がかかるというのが実感です。施行予定まで既に1年を切っていますので、早めに対策を始めるのがよさそうです。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

~参考資料~
 
※第87回労働政策審議会雇用環境・均等分科会(2025年11月17日開催)資料:こちら

 
※職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案(上記分科会資料1):こちら

 
※改正法の施行期日について(上記分科会資料6):こちら

 

(2025年11月26日)

 

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