労働基準関係法制の改正に向けた議論の状況
労働基準関係法制の抜本的見直しに向けた議論が現在進展していることは、報道等でご存じの方も多いと思います。当コラムでは以前、厚生労働省(労働基準局)に「労働基準関係法制研究会」が設置され、昨年(2024年)1月以降、研究会が開催されていることをお伝えしました(昨年5月のコラム)。
その後、昨年12月のコラムでも少し触れましたが、この「労働基準関係法制研究会」は、本年(2025年)1月8日に、議論の成果をまとめた報告書を公表しました。報告書は、「Ⅰ はじめに」、「Ⅱ 労働基準関係法制に共通する総論的課題」、「Ⅲ 労働時間法制の具体的課題」、「Ⅳ おわりに」という柱立てとなっています。Ⅱでは、労働基準法における「労働者」の範囲や「事業」について、また、過半数代表者のあり方などを含む労使コミュニケーションについて取り上げています。Ⅲでは、最長労働時間規制(上限規制だけでなく、労働時間の情報開示やテレワーク等の柔軟な働き方、実労働時間規制が適用されない管理監督者等に対する措置などを含む)や割増賃金法制(副業・兼業の場合の取扱いを含む)、労働からの解放に関する規制(休憩、休日、勤務間インターバル、つながらない権利、年次有給休暇制度)などが取り上げられています。
現在は、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会において、具体的な法改正に向けた議論が本年2月頃より進められています。直近では、10月27日に第204回分科会が開催されました。
これまでの分科会を経て、報告書の上記の柱について全般的に意見交換がなされており、第204回分科会では、「Ⅲ 労働時間法制の具体的課題」として、法定休日・連続勤務規制、勤務間インターバル、つながらない権利が取り上げられました。また、労働時間法制については、本年9月に「働き方改革の『総点検』」として、労働者に対するアンケート調査(労働時間をどの程度としたいか、また、その希望と現実のギャップの有無等の、労働時間に関するニーズ把握)や、労使双方に対するヒアリング調査(上限規制への対応状況や課題認識などの調査)が行われ、その結果が本年11月を目途に公表予定のため、その結果も踏まえてさらに議論される見込みです。
これまでの分科会で出された意見を集約した資料によると、使用者側委員からは「現行の働き方改革は、より働きたい、より稼ぎたい、成長したい、仕事の完成度を高めたいという労働者のニーズを抑制しているという指摘もあり、労働者の健康確保を前提に、そのようなニーズに応えられるような、中小企業においても活用できる、シンプルで分かりやすく柔軟な労働時間法制を検討することが必要」との意見が出されており、非常に頷けるところです。いわゆる働き方改革関連法により2019年4月に時間外労働の上限規制が導入されて5年が経過し、その間、コロナ禍がもたらした大きな変化もありました。労働者側のニーズも多様化しているものと思われ、労働者保護一辺倒ではない、法のベースとなる価値観自体の多様化・バランスにも期待したいところです。
なお、労働基準関係法制研究会に先立ち厚労省に設置された「新しい時代の働き方に関する研究会」(2023年3月~10月開催)が公表した報告書では、冒頭で、これからの労働基準法制のあり方を検討していく際には、労働者を「守る」視点だけでなく、働く人の多様な選択を支援できるよう「支える」視点も必要だとの考え方が示されています。現行法制の「守る」に「支える」を加え、今の時代に即した、さらには将来の変化も見据えた制度設計につながる検討が今後さらに深まっていくことに期待しています。
~参考資料~
※厚生労働省Webサイト「『新しい時代の働き方に関する研究会』の報告書を公表します」(2023年10月20日):こちら
※厚生労働省Webサイト「『労働基準関係法制研究会』の報告書を公表します」(2025年1月8日):こちら
※第204回労働政策審議会労働条件分科会(2025年10月27日開催)「参考資料No.1 各側委員からの主な意見の整理」:こちら
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