「改正公益通報者保護法に基づく指針の公表」

本年8月20日、消費者庁は、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号、以下「指針」)を公表しました。

 

公益通報者保護法(以下「法」)11条は、まず、1項で、公益通報対応業務従事者の指定義務を定めています。公益通報対応業務従事者とは、内部公益通報を受け、並びに、当該内部公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務に従事する者のことです(法11条1項、指針第2)。内部公益通報とは、労働者による法3条1号及び役員による法6条1号に定める公益通報のことで(法11条1項、指針第2)、通報窓口への通報が公益通報となる場合だけではなく、上司等への報告が公益通報となる場合を含みます(指針第2)。指針は、①誰を公益通報対応業務従事者として指定すべきか、及び②その指定方法について、①内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達させる者を従事者とすること、②書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない、としました(指針第3)。公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者が正当な理由なく通報者を特定させる情報を漏らした場合には刑罰(30万円以下の罰金)が予定されていますので(法21条)、その前提として、刑罰対象者を事業主において明確にし、それを対象者自身も明確に理解して就任するというプロセスを求めるものといえます。なお、これは、受け付ける通報があくまで公益通報に該当することが前提となりますので、いわゆるホットラインの窓口担当者等であっても、犯罪行為に該当しないハラスメントに関する通報に関する業務にのみ従事する場合は対象外です。

 

次に、法11条2項は、内部公益通報対応体制の整備義務を事業主に課しています。この整備義務には、以下の内容が含まれることが指針により明らかにされました(指針第4)。

 

 
部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備義務 ・内部公益通報受付窓口の設置等
・組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
・公益通報対応業務の実施に関する措置
・公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
公益通報者を保護する体制の整備義務 ・不利益な取扱いの防止に関する措置
・範囲外共有等の防止に関する措置
内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置 ・労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
・是正措置等の通知に関する措置
・記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
・内部規程の策定及び運用に関する措置

 

指針が述べる以上の措置の具体的な内容についてはここでは省略しますが、指針上には抽象的な表現が少なからず含まれており、措置義務の履行のために何をすべきかは、指針を読んだだけでは必ずしも読み取れないものとなっているように感じます。2022年6月までの施行に向けて、引き続き消費者庁からの情報発信等に注目していく必要があります。

 

なお、法11条2項による内部公益通報対応体制の整備義務は、常時使用する労働者の数が300人以下の企業では努力義務とされていますが(法11条3項)、行政からの報告徴収、指導等(法15条)の対象にはなりますので注意が必要です(ただし、是正勧告違反があった場合の企業名公表の対象にはなりません。法16条)。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

(2021年8月30日)

 

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