「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書及び指針案の公表」

 公益通報者保護法の改正法は、2020年6月12日に公布され、2年以内の政令で定める日より施行される予定となっています。

 

 2020年10月以降、所管庁である消費者庁において、「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」が組織され、計5回にわたる検討会を経て、2021年4月21日、検討会報告書及び指針案が公表されました。2021年4月28日から5月31日まで、指針案に関しパブリックコメントの募集がなされています。

 

 この指針は、改正法11条で新たに定められた事業主の措置義務、すなわち、①公益通報対応業務従事者を特定しなければならないこと(同条第1項)、及び、②公益通報に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他必要な措置をとらなければならないこと(同条第2項)に関して、その適切かつ有効な実施を図るために定められるものです(同条第3項)。

 

 検討会報告書では、指針に盛り込むべき事項について、項目ごとに丁寧に詳述されています。上記①に関しては、公益通報対応業務従事者を定める方法や、従事者となる者への通知の方法などについて記載されています(改正法では、公益通報対応業務従事者の守秘義務が明定され、違反した場合には当該従事者個人に対する刑事罰が予定されていますので、予期に反して刑事罰が科される事態を防ぐため、従事者本人に、従事者であることを明確に認識させる必要があります。)。また、上記②に関しては、㋐内部通報に対し部門横断的に対応する体制の整備(組織長その他幹部からの独立性の確保等を含む。)、㋑不利益な取扱いを防止する体制の整備(従業員・役員への教育・周知のほか、通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置等の不利益取扱いを防ぐための措置、通報者の特定にかかる情報を必要最小限の範囲を超えて共有することや通報者の探索を防止する体制の整備等)、㋒内部通報対応体制を実効的に機能させるための措置(公益通報者保護法や内部通報への対応体制に関する従業員・役員への教育・周知、通報後の調査結果等の通報者への通知、内部通報に関する記録の作成・保管や定期的な評価・点検等の実施等)などが盛り込まれています。

 

 内部通報制度に関しては、ハラスメントの通報・相談体制の整備・運用などを通じて、徐々に充実化が図られ、社内での認知度も高まっているように思いますが、これまでは、その具体的運用方法について明確に定めた法令はありませんでした。今回の改正法によって導入された上記措置義務は、内部通報制度の現状の運用実態を概ね上回る対応を企業に求めるものと思われ、各企業において施行までに十分な検討を要することになるでしょう(なお、上記①及び②の措置義務は、常時使用する労働者が300人以下である場合は、努力義務となります。)。

 

 今後、政府は、指針の公表だけでなく、事業者が指針に沿った対応をとるに当たり参考となる考え方や、想定される具体的取組事項等を示した解説を策定する予定です。改正法施行まで長くても1年少々しかありませんので、それらに関する情報も適時にキャッチし、早めに検討を始めることが望ましいと思われます。

 

※公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書:こちら

 

 

第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

(2021年5月11日)

 

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