「フリーランスガイドラインの公表」

 内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁と厚生労働省は、2021年3月26日、合同で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を公表しました。このガイドラインは、2020年12月24日に案が公表され、2021年1月25日までパブリックコメント手続に付されていました。計84件の意見が提出され、そのうち2件の指摘を踏まえた修正がなされました。

 

 ガイドラインでは、「フリーランス」を「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義付けています。このうち「実店舗がない」に関し、専用の事務所・店舗を設けず自宅の一部で小規模に事業を行う場合や、共有型のオープンスペースであるコワーキングスペースやネット上の店舗で事業を行う場合がこれに該当するものとされています。また、「雇人なし」に関しては、従業員を雇わず、自分だけで又は自分と同居の親族だけで個人経営の事業を営んでいる者をいうとされています。「フリーランス」はそもそも法律上の概念ではなく、場面ごとに様々に定義されるものです。個人事業主全般を指す用語として遣われることもあり、その場合には、ガイドラインが示す定義よりも対象者は広くなります。上記の定義は、あくまでこのガイドラインにおけるものであり、法適用の範囲を画するような機能を持つものではないこと、よって、この定義に該当しない者に対し、ガイドラインに反するような取引を行った場合であっても違法と評価される場合があり得ることには、当然のことながら念のため注意が必要です。

 

 ガイドラインは、独占禁止法・下請法と労働関係法令との適用関係を示した上で、独占禁止法・下請法の観点からは、フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項(優越的地位の濫用規制、発注時の書面交付義務等)と、仲介事業者が遵守すべき事項とが明らかにされています。また、労働関係法令に関しては、どのような場合にフリーランスに対して労働関係法令が適用されるのか、すなわち、労働基準法上の「労働者」性や労働組合法上の「労働者」性について、従来、行政が示してきた考え方や判例法理などがまとめられています。

 

 今回のガイドラインにおいては、全体的に特に目新しい内容や解釈は含まれていないように見受けられますが、フリーランスとの取引時の留意事項を省庁横断で網羅的に纏めたものは今までありませんでしたので、このガイドラインによって、フリーランスとして小規模に事業展開をしている者に対しても当然に各法による保護が及ぶこと、よって、発注者側も法令遵守に十分留意すべきことが明示された点に意義があるといえるでしょう。

 

 ガイドラインそれ自体は、違反による直接の制裁をもたらすものではないものの、今後、ガイドラインに基づく行政指導等が行われていく中での取引慣行の改善が想定されているといえます。とりわけフリーランスが関与する取引では、受発注内容が不明確であることが紛争の主要因となりやすいことから、ガイドラインの末尾に、契約書のひな型や記載例等が添付されています。発注者側も、それらを参照しながら、トラブル防止に向けて合意内容の書面化を早く習慣づけていくことが望ましいでしょう

 

第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

(2021年3月30日)

 

※フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(全文):こちら

 

※フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(概要):こちら

 

※案からの新旧対照(パブリックコメント結果の反映状況):こちら

 

※パブリックコメントの結果について:こちら

 

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