「副業・兼業の環境整備-複数事業労働者への労災保険給付の見直し」

 雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)が本年3月31日に参議院にて可決成立し、同日公布されました。この改正には、労働者災害補償保険法の改正が含まれており、同法改正は、複数事業労働者(事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者)のセーフティネットを整備するべく、労災補償給付や労災認定について見直すもので、本年9月1日より施行されます。この施行に先立ち、脳心臓疾患や精神障害に関する労災認定基準も本年8月21日付で改正されました。
 

 この改正は、①複数事業労働者やその遺族等に対する労災保険給付について、「複数事業労働者休業給付」等を新設し、全ての就業先の賃金額を合算した額を基礎として保険給付額を決定すること、②1つの事業場で労災認定できない場合であっても、事業主が同一でない複数の事業場の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定すること、などを主な内容とするものです。
 

 ①について、今回の改正前は、A社から月額20万円、B社から月額15万円の賃金を得ていた労働者がB社において被災した場合、被災によりA社・B社双方について休業せざるを得なくなった場合であっても、休業補償給付等は、B社の賃金額のみに基づいて算定されていました。これが、今回の改正後は、A社とB社の賃金額を合算した35万円を基礎として給付基礎日額が決定されることになります。
 

 ②について、A社とB社の双方に雇用されている労働者が傷病等を発症した場合、今回の改正後は、いずれか一社のみの業務上負荷だけでは労災認定できない場合であっても、A社とB社の双方の業務上負荷を総合評価すれば労災認定できる場合には、労災給付がされることになります。なお、一社のみにより労災と認定できる場合であっても、複数事業労働者については、上記①のとおり、全ての就業先の賃金額を合算した額を基礎に給付額が決定されます。
 

 以上の改正については、本年9月1日以降に発生した傷病等について適用されます。

 

(第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子)

 
※厚生労働省Webページ「労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~」:こちら

 
※厚生労働省パンフレット「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説」:こちら

 
※脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準(2020年8月21日改正版):こちら

 
※心理的負荷による精神障害の認定基準(2020年8月21日改正版):こちら

 

(2020年8月28日)

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