「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

 厚生労働省は7月1日、「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表しました。

 
 これは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づく①総合労働相談(労働局と労基署に設置された全国379か所の総合労働相談コーナーで相談受付)、②労働局長による助言・指導(①の相談者の申出による)、及び、③労働局に設置された紛争調整委員会によるあっせん(①の相談者の申請又は②を経た申請による)、の3つの実施状況を示すものです。

 
 令和元年度は、①総合労働相談件数は前年度(平成30年度)より増加(6.3%増)、②助言・指導申出件数と③あっせん申請件数は前年度とほぼ横ばい(②0.4%増、③0.3%減)であることがわかりました。また、①②③の全てについて、最も多い相談項目は「いじめ・嫌がらせ」であり、前年度に引き続き、過去最高の件数を記録したことがわかりました(①のうち法制度の問い合わせと労働基準法等の違反の疑いがあるものを除く件数として5.8%増の87,570件で8年連続トップ、②0.3%増の2,592件で7年連続トップ、③1.6%増の1,837件で6年連続トップ)。「いじめ・嫌がらせ」に次いで多かった相談項目は、①では「自己都合退職」、②③では「解雇」でした。

 
 「いじめ・嫌がらせ」に関する相談数の顕著な増加は、目を見張るものがあります。平成30年度に初めて8万件を超えましたが、令和元年度ではもう9万件が目前です。「いじめ・嫌がらせ」への分類は、相談者の主観によるため、違法なハラスメントがこのうちどの程度を占めるのかは不明ですが、「いじめ・嫌がらせ」を受けたと感じる労働者の増加傾向は読み取れるところであり、本年6月1日施行の改正労働施策総合推進法によるパワハラ防止措置義務と相俟って、ハラスメントの防止や職場環境の改善に向けた様々な取組の必要性を強く感じ取ることができます。

 
 紛争調整委員会によるあっせんは、無料・非公開で早期解決を目指すことができる紛争解決手続として労働者側に高いニーズがあります。緊急事態宣言発令中も、裁判所等がほぼ停止状態にあった中、あっせんは極力、通常通りの運営に努めていたと聞いています。今年度は、コロナ禍がもたらした経済の悪化に伴い解雇・雇止め等の紛争も増加することが見込まれ、紛争解決においてあっせんが果たす役割はより大きなものとなりそうです。

 

(第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子)

 
※令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況(厚労省Webサイト):こちら
 

(2020年7月30日)

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