「緊急事態宣言の全面解除と今後の労務管理」

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため政府が本年4月7日に発令した緊急事態宣言は、5月25日に全面解除となりました。今後は、引き続き感染拡大防止に努めつつ、社会経済活動を徐々に本格化させていくことになります。

 
 新型コロナウイルスの感染拡大は「働き方」に大きな変革をもたらしました。多くの企業が手探りの中、待ったなしで在宅勤務や時差出勤などに踏み切り、それにより労使ともに様々な気づきを得たことと思います。「新しい生活様式」という言葉に象徴されるように、感染が収束しても元に戻るのではなく、得た気づきを活かして積極的かつ柔軟に変化していくことが、持続的成長のためにより一層求められることになるでしょう。労働基準法をはじめとする現在の労働関係法規による規制手法は、働き方の変革にとって足枷となる側面があることは否定できませんが、それでも諦めることなく知恵を絞って変化していこうとする社会の動きこそ、いずれ法改正の立法事実となり、社会が法を変えていくと信じたいものです。

 
 緊急事態宣言の解除にあたり、新型コロナウイルスへの感染リスクと安全配慮義務との関係を懸念している労務担当者は少なくないようです。安全配慮義務違反は、心身の安全を損なう危険の具体的予見可能性と結果回避可能性を前提とするものですので、感染ルートが具体的に予見できるような場合を除き、安全配慮義務違反の法的責任が生じる可能性は、労務担当者の方々が危惧しているほどには高くないのではないかと考えます。もっとも、安全配慮義務違反の前提となる業務に潜む危険の所在は、通常であれば、各企業における業務の実態ごとに様々ですが、新型コロナウイルスに関しては、皆一律の社会状況の中にあり、企業ごとの差異を見出しづらい側面があるため、「他社が取り組んでいることは自社も取り組む」といった横並びの視点は重要といえます。加えて、労使が一致団結して難局を乗り越えていくには、従業員の不安感の排除といった精神面への配慮も労働施策上検討する必要があります。「法的にどこまでやらければならないのか」といった視点を重視し過ぎるとかえって思考停止に陥るおそれもありますので、「できることはやる」という姿勢で臨むことが、結果的に安全配慮義務違反を問われるリスクを低減することにつながるでしょう。今後の労務管理においては、厚生労働省が自主点検用に公表した「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」(後掲)もぜひ参考にしてください。

 

(第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子)

 
※厚生労働省公表「新しい生活様式」:こちら
 
※本年5月14日付厚生労働省発信・労使団体の長宛「職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について」:こちら
 
※厚生労働省公表「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」:こちら
 

(2020年5月27日)

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