「内定に関する法律関係の整理」

 新型コロナウイルスの感染拡大が企業活動に深刻な影響を与えています。終わりが見えない状況の中、人事労務管理においても、テレワークや在宅勤務への切替え、時差出勤の対応など喫緊の対策を余儀なくされているところです。そのような中、本日(2020年3月13日)、政府が経団連等の経済8団体に対し、学生の採用活動や内定者の扱いに配慮するよう要請したとの報道がありました。これは、4月入社が予定されていた内定者に対し、急激な企業経営の悪化などを理由に内定を取り消す動きが出始めていることに対応するものと思われますので、今回のコラムでは、内定に関する法律関係を今一度整理しておきたいと思います。
 ひとことに「内定」と言っても、その法的性質は事案ごとに様々でありますが、判例法理では、新卒採用の事案において、「採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかった」ときには、採用内定通知は、学生からの労働契約の申込みに対する承諾となり、採用内定通知と学生による誓約書の提出とがあいまって、その時点で就労の始期を卒業直後とする労働契約が成立した、との解釈が示されています(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。この考え方を前提とすると、新卒採用・中途採用を問わず、内定により、その後に採否確定のための特段の手続が予定されなくなった時点で、入社前であっても労働契約は成立します。このことから、内定の取消しの法的性質は解雇であり、解雇権濫用法理(労働契約法16条)に服することとなります。新型コロナウイルスによる企業経営の悪化を理由とする取消しは整理解雇と同視できますから、未だ内定段階であるからといって容易に取消しができると考えるのは誤りです。また、採用選考手続の過程にあり、未だ「内定」に至っておらず、労働契約が成立していないと評価できる場合であっても、急な採用の取り止めは、状況によっては期待権侵害の不法行為となり、損害賠償義務が発生する場合もあります(コーセーアールイー(第2)事件・福岡高裁平成23年3月10日判決参照)。
 内定者の入社後も当面の間十分な業務量が見込めない場合には、内定取消しを即断する前に、まずは休業手当(労働基準法26条)の支払による対応を検討するとよいでしょう。

(第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子)
 
 

*厚労省の「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置に関するQ&A(2020年3月10日版)」はこちら

 

(2020年3月16日 更新)

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