「複数就業者の労災保険の在り方の見直し」

雇用型の副業・兼業を行う複数就業者に関する労災保険の在り方が、現在、労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会(以下「労政審労災保険部会」)で議論されています。この議論は、「多様な働き方を選択する者やパート労働者等で複数就業している者が増加している実状を踏まえ、セーフティネットとしての機能を果たしている労災保険制度の見直しを行い、複数就業者が安心して働くことができるような環境を整備する」ことを目的としています。

厚労省が2018年1月に策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」のQ&Aでは、労災保険に関して、
①副業・兼業する労働者への労災保険給付額は労働災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき算定する
②副業・兼業している場合の業務の過重性評価では、それぞれの就業先における労働時間は合算しない
③A会社での勤務終了後、B会社へ向かう途中に災害に遭った場合は通勤災害に該当するが、保険給付はB会社の労災保険を使用する
との考え方が示されていました。

これによれば、平日の日中はA会社で正社員として働き、A会社での終業後、週に何日かB会社でアルバイトをしている場合に、B会社の業務中に被災し、又は、B会社への出勤中に被災した結果、それによりA会社での就労もできなくなったとしても、休業補償給付等の給付額は、賃金額の低いB会社をベースに算定される、ということになります。この仕組みは、労働者にとって副業・兼業を行う際の大きなリスクの一つと言わざるを得ません。
他方で、副業・兼業を行うかどうかは労働者の自由であり、他の就業先での就労状況について使用者は関知できませんから、上記の例で、A会社も災害補償責任を負うとするのは不適当ですし、また、B会社が、A会社での賃金を基礎とした給付分まで災害補償責任を負うこととすることも、使用者責任を著しく拡大するものであり不適当といえます。

報道によれば、12月10日に開かれた労政審労災保険部会で、休業給付に関し複数就業先の状況を総合して算定するとの方向性を大筋で確認し、今後、法改正作業に着手し、早ければ来年度中の施行を目指すことになったとのことです(同日の議事録はまだ公表されていません)。今後のさらなる論点整理に注目です。

(五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子)

 

(2019年12月12日 更新)

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