カスタマーハラスメントに関する法令・条例の動き
前回のコラムで、2025年は、カスタマーハラスメント(カスハラ)について事業主の雇用管理上の措置義務化に向けた法令改正の動きが見込まれることに触れました。これは、労働政策審議会の2024年12月26日付け建議に「カスタマーハラスメントは労働者の就業環境を害するものであり、労働者を保護する必要があることから、カスタマーハラスメント対策について、事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当である」と明記されたことに拠るものです。
同建議は、カスタマーハラスメントの定義を、①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと、②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること、③労働者の就業環境が害されること、のいずれをも満たすものとしています。また、事業主の措置義務の内容については、セクハラやパワハラ等と同じく、㋐事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、㋑相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、㋒カスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(カスタマーハラスメントの発生を契機として、カスタマーハラスメントの端緒となった商品やサービス、接客の問題点等が把握された場合には、その問題点等そのものの改善を図ることをも含む。)、㋓これらの措置と併せて講ずべき措置、としています。パワハラと同じく労働施策総合推進法にこれらに関する規定が入る予定です。
昨年末には、国による法令対応より一歩進んでいる東京都が、「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」を公表しました(12月19日付け策定、同月25日公表)。東京都は、昨年10月11日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(以下「防止条例」)を公布し、本年4月1日の施行を予定しています。ガイドラインは、防止条例の解釈等を具体的かつ詳細に示すものです。
防止条例は、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。」との明確な禁止規定を置いている点で注目されます(第4条)。「何人も」となっていますから、都民であるか否かを問いませんし、企業間取引を背景としたものも禁止対象に含まれます(ガイドラインより)。罰則規定はありませんが、罰則がなくても違反は違反ですから、明確な禁止規定の存在による抑止力や、企業等による対策を後押しする効果が期待されます。このほか、防止条例は、事業者(都内で事業を行う法人、その他の団体、国の機関、個人事業主)がカスハラ防止に主体的・積極的に取り組むこと、東京都による防止施策に協力することなどの努力義務を定めています。
東京都では、条例の施行までに「各団体共通マニュアル」を策定する予定としています。これは、各業界団体が定めるマニュアルの共通事項や、マニュアル策定上のポイント・留意点をまとめるもので、実際の現場での取組みを実践する上で具体的な対応の拠り所となることを目指すものです。
近時は、このような法や条例の対応に先駆けて、各社が既にカスハラ対策を進めているところですが、その拠り所となっているのは、厚生労働省が2022年2月に公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」だと思われます。既に約3年前のものとなりますが、非常に充実した内容で、今後も引き続き大いに実務に役立つもので、東京都のマニュアル等も含め、参考となる資料が増えていくことは望ましいことと思います。
なお、地方自治体では、東京都のほか、北海道や三重県桑名市でも既にカスハラ防止条例が成立しており、いずれも本年4月1日施行予定です。群馬県も現在、4月1日施行を目指して条例の制定を進めているとのことであり、同様の動きは全国の地方自治体にさらに広まっていくことが予想されます。
参考資料~
※労働政策審議会建議「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」(令和6年12月26日・労審発第1649号):こちら
※東京都カスタマー・ハラスメント防止条例について(東京都Webサイト):こちら
※東京都Webサイト「『カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)』を策定しました」:こちら
※厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」:こちら
________________________________________________________
★「改正育児介護休業法への実務対応」について当コラム担当の町田弁護士が詳細に解説します。この機会にぜひご受講ください!
労働法学研究会・例会第2950回『詳細解説 改正育児介護休業法への実務対応<育児編>』
労働法学研究会・例会第2951回『詳細解説 改正育児介護休業法への実務対応<介護編>』
※配信期間12月27日~2月28日
________________________________________________________
★こちらもおすすめ!
労働法制をはじめ労使に関係する注目動向、今後の見通しと対応について水町勇一郎先生が解説します。
『労働法学研究会・例会第2952回「2025年の労働法制の行方」』
※配信期間2月4日~3月21日