厚生労働省は2024年1月、パンフレット「多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説 全業種版」を公表しました(飲食業と小売業向けは先に公表済み。)。このパンフレットでは、配置転換や転勤、仕事内容や勤務時間等の範囲が限定されている正社員(限定正社員)の総称を「多様な正社員」とし、「『多様な正社員』制度は、働き方の柔軟化を促し、ワーク・ライフ・バランスを実現する上で重要な制度であるばかりか、『無期転換ルール』によって、無期雇用となった社員の重要な受け皿の1つ」になるとしています。
「多様な正社員」制度の普及促進に関しては、厚生労働省に設置された「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」が2014年7月に報告書を公表しています。この報告書では、「多様な正社員の円滑な活用のために使用者が留意すべき事項と促進するための方策」の一つとして、「労働者に対する限定の内容の明示」を挙げ、「労使間で職務や勤務地の限定をめぐる争いが生じるのは、使用者が限定の有無や内容について曖昧に運用し、労使のいずれかが限定があると認識し、他方が限定が無いと認識している場合や、限定の内容について労使の認識が一致していない場合である」、「限定がある場合はその旨と限定の内容について当面のものか、将来的にも限定されたものか明示していくことは重要であると考えられる。」としています。これらの記述から想起されるのは、言うまでもなく、2024年4月施行の労働基準法施行規則改正(以下「労基則改正」)による労働条件明示の強化です。また、上述のパンフレットでは、無期転換ルールへの対応に関する文脈の中ではありますが、長期的なキャリア形成のあり方を明確にすることの重要性が説かれており、これも、今般の労働条件明示の強化の趣旨・効果につながるものといえます。
現在、労基則改正の施行に向けて対応を進めている企業も多いと思いますが、重要なのは、改正の背景にある考え方や改正の趣旨なども含めて理解し、また、その理解を職場に浸透させることです。つまり、何が変わるのか、だけでなく、なぜ変わるのか、の理解も重要であり、労働条件明示書のフォーマットを形式的に変更するだけでは、改正対応は不十分でしょう。
また、労基則改正の中で、無期転換の申込みに関する事項が明示対象に加わったことで、今般の改正法対応は、無期転換ルール自体を正しく理解できているか、また、無期転換後の労働条件が適切に整備されているか、について振り返る機会ともなっているようです。上述のパンフレットでは、就業規則例が複数紹介されており、対応漏れがないかの確認にも活用できます。特に、無期転換社員の労働条件整備にあたっては、労働条件の内容自体に目が行きがちですが、それと同じくらい重要なのは、就業規則上、複数の社員区分を正しく定義し、的確に書き分けられているか、つまり、各区分に重なり合う社員がいるような定義になっていないか、という点です。このあたりもパンフレットの就業規則例は参考になります。さらに、パンフレットでは、(限定のない)正社員から、限定正社員への転換に関する規定例も紹介されています。当然ながら、そのような制度を設けなければならないわけではありませんが、正社員から限定正社員への転換や、その逆の転換を認めるかどうか等も、企業の人事戦略上検討することは重要でしょう。
※厚生労働省パンフレット「多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説 全業種版」:こちら
※「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会 報告書(2014年7月):こちら
※厚生労働省「多様な働き方の実現応援サイト」:こちら
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