「フリーランスの保護に向けた立法の動向」

 2023年2月24日、フリーランスの保護に向けた新法である「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」の案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)を国会に提出することが閣議決定され、参議院に提出されました。

 
 この法律は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、フリーランスに業務を委託する事業者に様々な義務を課しています。

 
 法案の中の用語は、少々わかりづらいですが、「特定受託事業者」がフリーランスのことで、「業務委託事業者」が「特定受託事業者」(フリーランス)に対して一定の業務(委託する業務の内容は、物品の製造・加工、情報成果物の作成及び役務の提供に限定されていますが、世の中の多くがこれに含まれるものと思われます。)を委託する場面を規律する法律であることが読み取れます。

 
 フリーランスのことを指す「特定受託事業者」は、法案の中では、「業務委託の相手方である事業者」であって、(ア)従業員を使用しない個人、又は、(イ)代表者が1人で他に役員がなく、かつ従業員を使用しない法人、のいずれかが該当すると定義付けられています。「事業者」自体の定義はありませんが、単なる「者」ではなく「事業者」とされたことなどをふまえると、事業を営む者のみが(事業を営む場面において)これに該当し、労働者はこれに含まれないという整理になるものと思われます。

 
 また、「業務委託事業者」のうち、①従業員を使用する個人、②2人以上の役員がいる法人、又は、③従業員を使用する法人のいずれかに該当する事業者は、「特定業務委託事業者」となり、この法律による義務づけの多くは、この「特定業務委託事業者」を対象としています。

 
 義務づけの具体的な内容は、下請法(取引の適正化に関する部分)と労働法(就業環境の整備に関する部分)を合わせたようなイメージです。まず、取引の適正化に関する部分では、全ての業務委託事業者は、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法で明示しなければなりません。また、特定業務委託事業者においては、報酬の支払期日は委託側が給付内容を検査するかどうかを問わず給付受領日から60日以内のできる限り短い期間内とすること等(再委託する場合は元の委託における支払期日から30日以内のできる限り短い期間等)とすること、さらに、継続的な業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの。更新によってその期間に達するものを含む。)にあっては、特定業務委託事業者は、フリーランス側に帰責事由がないのに受領を拒否したり報酬を減額したり返品を行ったりすること等が禁止され、以上の規律については、公正取引委員会又は中小企業庁が取り締まりを行うこと(フリーランス側はこれらに違反を申し出ることができること、その申出をしたことについての不利益取扱いが禁止されること)が予定されています。

 
 次に、就業環境の整備に関する部分については、いずれも特定業務委託事業者について、募集情報の的確表示(虚偽の表示や誤解を生じさせる表示の禁止、正確かつ最新の内容に保つべきこと)や、妊娠・出産・育児・介護に関しては、継続的業務委託においては育児介護等と両立して業務に従事できるよう(フリーランスからの申出がなくとも)必要な配慮を行うこと、継続性がない業務委託の場合は、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をするよう努力することが規定されています。また、継続性の有無を問わず、フリーランスに対するセクハラ、マタハラ又はパワハラが生じないよう相談に応じ適切に対応するために必要な体制を整備することも義務づけられます(体制整備の詳細は指針にて明示)。このほか、継続的業務委託を委託者側が解除しようとする場合には、原則として、30日前までに予告をしなければならず、さらに、フリーランスからの求めがあれば解除の理由を遅滞なく開示しなければなりません。これらの就業環境の整備に関する部分は、厚生労働省において取り締まりを行い、一部を労働局に委任することも予定されています。

 
 罰則に関しては、法違反の是正を求める命令への違反等について、その違反行為者への50万円以下の罰金(法人の両罰規定あり)等が予定されています。なお、この法律では、フリーランスは保護対象として位置づけられ、フリーランスの側からの契約解除の場面も含め、フリーランスに対する何らかの義務づけは含まれていません。

 
 施行は、公布の日から起算して1年6月以内で、施行から3年経過を目途として法律の内容等を再検討することが予定されています。

  
 この法律によって具体的にどれほどのフリーランスが救われるのかは未知数ではありますが、少なくともフリーランスとの取引においても適正化や良好な就業環境が維持されなければならないことは、この法律によって明確化されました。委託側の資本金額等による規律の差はなく、「特定業務委託者」(上記①②③のいずれか)には多くの企業が含まれるであろうことから、実務に与える影響は小さくないと思われます。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(以下はいずれも内閣官房Webサイト(こちら)より)

 
 概要:こちら
 要綱:こちら
 法律案・理由:こちら
 参照条文:こちら

 

(2023年2月28日)

 

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