「2023年労働立法の動向・労働条件明示義務の強化等」

 2023年のスタートにあたり、本コラムでこれまでにご紹介したものも含め、2023年の労働立法の動向を確認したいと思います。

 
 4月に施行される法令改正の一つが、前回のコラムで紹介した賃金のデジタル払いです。4月1日に改正労働基準法施行規則が施行され、資金移動業者の指定申請が始まります。審査には数ヶ月を要するものとされていますので、企業が実際に賃金のデジタル払いを開始できるのは、本年夏頃以降となりそうです。

 
 次に、同じく4月、育児介護休業法の2021年改正が最終施行され、常時雇用労働者数が1000人を超える企業において、男性の育児休業等の取得率の公表が始まります。具体的には、2023年4月1日以後に開始する事業年度から、「公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度」の取得率の公表が義務付けられます。公表時期は、事業年度終了後、概ね3か月以内とされていますので、4月に事業年度がスタートする企業においては、2022年4月から2023年3月までの取得率を、2023年6月末頃までに公表することになります。

 
 また、情報公表に関連して、2022年7月に女性活躍推進法に基づく省令が改正され、常用労働者数301人以上の企業に対し、男女の賃金の差異の把握・公表が義務付けられました。この改正は、既に昨年7月8日に施行されていますが、公表時期は、施行後、最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後概ね3か月以内とされていますので、男性の育児休業等の取得率と同じく、4月に事業年度がスタートする企業においては、2022年度の実績を、2023年6月末頃までに公表することとなります。なお、平均賃金(=総賃金÷人員数)の算出にあたり、パート労働者の人員数はフルタイム換算した人員数を用いてもよいとされていましたが、そのような換算をする場合には、その旨を示さなければならないことを明確化した通達が2022年12月28日に出されています。また、公表の際には、単に数値のみを示すのではなく、その背景に関して「説明欄」を活用することが重要との方向性が厚生労働省により示されていますので、参考にしてください(後掲資料参照)。

 
 このほか、2023年はまず、労働条件明示義務について法令等の改正がされる予定です。2022年12月27日、労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」が公表されました。この報告のうち、今後の労働契約法制に関しては、無期転換ルールに向けた見直しと多様な正社員の雇用ルールの明確化等に関する検討結果が盛り込まれており、無期転換ルールに関しては、無期転換申込権が発生する契約更新時の労働条件明示事項として、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件を追加するとともに、更新上限を設ける場合には、更新上限の有無や内容を労働条件明示事項とする方向性が示されています。また、更新上限を新たに設ける場合や更新上限を短縮する場合には、その理由を労働者に事前説明するよう厚生労働省告示で求めるべきとされています。多様な正社員の雇用ルールの明確化に関しては、労働者全般について、就業場所・業務内容の変更の範囲を労働条件明示事項に追加すること、また、労働条件明示のタイミングは、現在は、労働契約の締結時ですが、労働条件の変更時の明示も追加することなどを今後引き続き検討すべきとされています。現在、これらに関する労働基準法施行規則等の改正案がパブリックコメントに付されており、それに関する資料によると、2023年3月上旬頃までに改正手続を終え、2024年4月からの施行を目指しているようです。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※厚生労働省リーフレット「2023年4月から、従業員が1,000人を超える企業は男性労働者の育児休業取得率等の公表が必要です」(令和4年12月):こちら

 

※厚生労働省リーフレット「女性の活躍に関する『情報公表』が変わります」(令和4年12月28日改訂):こちら

 

※厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課作成周知資料「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の公表について」(令和5年1月23日):こちら

 

※労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」(令和4年12月27日公表):こちら

 

※労働基準法施行規則等の改正案に関するパブリックコメント募集情報:こちら

 

(2023年1月25日)

 

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