「職場における学び・学び直し促進ガイドラインの策定」

 本年6月29日、厚生労働省は「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」の策定を公表しました。

 
 労働者の職業訓練や職業能力に関するいわば基本法として、職業能力開発促進法があり、同法は、職業能力開発施策の基本方針について厚生労働大臣が職業能力開発基本計画を定めるものとしています。2021年3月に定められた2021年度から2025年度までの5年間の第11次職業能力開発基本計画では、労働者に求められる能力の急速な変化と職業人生の長期化・多様化が同時に進行する中で、企業における人材育成を支援するとともに、労働者の継続的な学びと自律的・主体的なキャリアの形成を支援するとの方向性が示されました。

 
 この基本計画等を受けて、労働政策審議会は、2021年12月21日、「人材開発分科会報告~関係者の協働による『学びの好循環』の実現に向けて~」を公表し、その内容を厚生労働大臣に建議しました。その中で、企業内の学び・学び直しを促進するためのガイドラインの策定などの措置を講ずることが適当であるとされていました。

 
 今般策定されたガイドラインは、職場における人材開発(「人への投資」)の抜本的な強化を図るため、基本的な考え方や、労使が取り組むべき事項、公的な支援策等を体系的に示したものであり、労働政策審議会人材開発分科会での議論の中で、「主体的な学びは、労働者任せにするということではなく、企業も関与するという視点が重要」、「労働者の自律的かつ主体的なキャリア形成に向けては、働き手の意識改革が求められ、その上で、そういった働き手を企業や政府がどう支援していくのか考えていくという視点が重要」、「企業のマネジメント層が、部下をサポートする能力を持つことができるようにすることが重要」等の意見が出されたことが踏まえられています。労使が取り組むべき事項として示されている内容は、①経営者による経営戦略・ビジョンと人材開発の方向性の提示・共有、に始まり、③学ぶ意欲の向上に向けた節目ごとのキャリアの棚卸し、⑥労働者が相互に学び合う環境の整備、⑦学び・学び直しのための時間の確保、⑩身に付けた能力・スキルを発揮することができる実践の場の提供、⑬学び・学び直しの場面における現場のリーダーの役割と取組等の計13項目に及び、非常に詳細なものとなっています(以上の丸番号は、厚生労働省公表のガイドライン概要より)。

 
 職業能力開発促進法は、事業主は、労働者が職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発・向上を図ることを容易にするために必要な援助を行うこと等により、その労働者の職業能力の開発・向上の促進に努める責務を負うものと定めていますので(4条1項)、このような責務を負っていることを踏まえれば、ガイドラインが定める詳細な内容の理解は進みますが、他方で、同法は、労働者本人が自ら自発的な職業能力の開発及び向上に努めるべきことも基本理念としており(3条の3)、学ぶ意欲の程度は労働者ごとに様々である中で、企業がどこまで具体的な支援をすべきか、また、支援の目的をどのように設定するか、さらには、プレイングマネージャーが多い現状で、現場の管理職のさらなる負担につながらないよういかに配慮すべきか、といったことは、学び・学び直しに向けた取組にあたり十分検討する必要があるのではないかと思われます。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 
 

※職場における学び・学び直し促進ガイドライン:こちら

 

※職場における学び・学び直し促進ガイドライン別冊:こちら

 

※職場における学び・学び直し促進ガイドライン概要:こちら

 
※厚生労働省Webサイト-リカレント教育に関するページ:こちら

 

(2022年7月6日)

 

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