「不妊治療と仕事の両立のための職場環境整備」

 2022年4月より、不妊治療に関して保険適用が開始されたり、次世代法(次世代育成支援対策推進法)の施行規則改正により、不妊治療と仕事との両立に取り組む企業を認定する「くるみんプラス」等の制度が新設されたりしています。このほかにも、不妊治療と仕事の両立のための職場環境整備に向けて厚生労働省は取組を強化しており、今回のコラムではその動きをご紹介します。

 

 取組強化に向けては、2020年5月29日、総合的かつ長期的な少子化に対処するための指針として「少子化社会対策大綱」が閣議決定され、その具体的施策として、「不妊治療について職場での理解を深めるとともに、仕事と不妊治療の両立に資する制度等の導入に取り組む事業主を支援し、仕事と不妊治療が両立できる職場環境整備を推進する」ことなどが明記されました。これを受けて、内閣府と厚生労働省の連携により同年10月より「不妊治療を受けやすい職場環境整備に向けた検討チーム」が開催され、同年12月3日、今後の取組方針が取りまとめられました。その中では、「企業において、プライバシーの保護に配慮しながら、通院に必要な時間を確保しやすい職場環境を整備することが重要」、「多様な選択肢(半日単位・時間単位の年次有給休暇制度、不妊治療のために利用できる特別休暇制度、時差出勤やフレックスタイム制等の柔軟な働き方)が用意されるとともに、これらが利用しやすい職場風土が醸成されるよう、より一層の企業の取組を促進」といったことが盛り込まれました。

 

 その後も様々な検討等を経て、2022年3月、厚生労働省は事業主・人事部門向けのパンフレットとして「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」を公表しました。このパンフレットは、①不妊治療について、②企業における不妊治療と仕事との両立支援に取り組む意義、③不妊治療と仕事との両立支援導入ステップ、④不妊治療と仕事との両立を支援するための各種制度や取組、⑤不妊治療と仕事との両立に取り組んでいる企業の事例(計20社)、⑥不妊治療と仕事との両立を支援する上でのポイント、及び⑦参考情報という計7章から構成され、不妊治療との仕事の両立に向けた取組をまだ初めていない企業にとっても、既に何らかの取組を進めている企業にとっても、参考になる情報が多く盛り込まれているように見受けられます。特に、取組を始める際の社内向けアンケートの例が掲載されていることや、第5章で計20社の様々な制度導入事例やその制度の利用者・周囲の声が紹介されていることは有益でしょう。

 

 不妊治療と仕事との両立支援に際しては、不妊治療特有の対応の難しさがあることは否めません。その一部を挙げるとすれば、①治療を受ける者自身、通院期間や通院日、1回あたりの通院時間の見通しが立ちづらいこと(不妊治療がいつ終わるのかが見通せないことはもとより、毎回の通院に際しても、身体の状態に応じて医師から「また明日も来て下さい」と言われ急遽連日の通院となったり(仕事との調整がつかず通院できない場合、それだけで次の治療が1か月程度先延ばしになってしまうこともあります)、特に人気のある病院や大きな病院に通院する場合は診察開始や会計まで非常に長い時間、待たされたりすることもあります)、②不妊治療をしていること自体を会社に知られたくないと考える人も多いこと(「不妊治療休暇」といった名称の休暇制度を設けても取得が進まない場合があるかもしれません)、③不妊治療自体が少なからぬ精神的・身体的ダメージを与えること(しかし、周囲に対してそれを必死に隠しており、周りはそれを感じ取れないことも多いでしょう)、などです。このほか、「不妊は病気ではない」との誤解や安易な「自己決定論」により周囲の従業員の理解が進まない場合も考えられます。このような難しさをはらんでいることをまずは理解し、できるところから支援を進めていくことが求められると考えます。

 

五三・町田法律事務所 弁護士 町田悠生子

 

※厚生労働省Webサイト「不妊治療と仕事との両立のために」:こちら

 

※厚生労働省パンフレット「事業主・人事部門向け 不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」(2022年3月公表):こちら

 

(2022年5月25日)

 

一覧へ戻る