労働判例ジャーナル93号(2019年・12月)

■注目判例

内縁関係を理由とする配転と権利濫用法理

島根県水産振興協会事件

■ポイント

 本件は,内縁関係にある夫婦が同じ職場で就労していたところ,夫を別の事業場に配置転換させたことの適法性が争われた事例である。原審の松江地裁判決(平30・6・25本誌79号8頁)は,本件配転命令について,業務上の必要性を踏まえた合理的な判断によるものであることなどから有効と認められるとした。これに対して,本判決は,内縁関係にある夫婦の一方を移動させる本件配転命令は,業務上の必要性がなく,不当な動機,目的に基づいてされたものとして,配転命令権の濫用であるとして本件配転命令を無効とした。
 このように本判決が地裁判決と判断を異にしたのは,本件配転命令が決定される経緯を詳細に認定することによって,その目的が不当な動機・目的にあることを認定できたからと言える。判例の判断基準によれば,業務上の必要性は,何らかの企業運営上の合理性が認められれば,肯定されることになるが,本判決においては,不当な動機・目的の判断の過程で,業務上の必要性が名目に過ぎないとしたことも特徴であろう。そして,内縁関係にある従業員らが同じ職場に勤務することを解消するということが,配転命令において不当な動機・目的と評価されることを示したことも注目される。

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目次

◆ 内縁関係を理由とする配転と権利濫用法理

公益社団法人島根県水産振興協会事件

広島高裁松江支部(令和元年9月4日)判決

◆ 元従業員らの割増賃金未払等に基づく損害賠償等請求

孝生社大阪老人介護事件

大阪地裁(令和元年8月30日)判決

◆ 雇止め無効地位確認等請求

地方独立行政法人大阪市民病院機構事件

大阪地裁(令和元年8月22日)判決

◆ 雇止め無効地位確認等請求

地方独立行政法人大阪市民病院機構事件

大阪地裁(令和元年8月22日)判決

◆ 早出時間と固定残業代の成否

清和プラメタル事件

大阪地裁(令和元年8月22日)判決

◆ 懲戒解雇無効と賃金仮払申立

新日本事件

大阪地裁(令和元年8月21日)決定

◆ 先輩職員らのパワハラに基づく損害賠償等請求

津幡町事件

名古屋高裁金沢支部(令和元年8月21日)判決

◆ 仮眠時間の労働時間該当性

新栄不動産ビジネス事件

東京地裁(令和元年7月24日)判決

◆ 精神障害発症の業務起因性

国・亀戸労基署長事件

東京地裁(令和元年7月18日)判決

◆ 社宅貸与請求義務等の不履行に基づく損害賠償等請求

関電工事件

東京地裁(令和元年7月11日)判決

◆ 解雇無効地位確認と不就労期間の未払賃金等支払請求

えびす自動車事件

東京地裁(令和元年7月3日)判決

◆ 職場の風紀を著しく乱す行為に基づく懲戒解雇の有効性

マルハン事件

東京地裁(令和元年6月26日)判決

◆ トラック運転手らの時間外割増賃金等支払請求

三村運送事件

東京地裁(令和元年5月31日)判決

◆  能力不足を理由とする解雇の有効性

弁護士法人子浩法律事務所事件

東京地裁(令和元年5月31日)判決

◆解雇無効地位確認等請求と会社からの損害賠償等請求

ズツカ事件

東京地裁(平成31年4月26日)判決

◆ 賃金減額の同意と未払割増賃金等請求

飯島企画事件

東京地裁(平成31年4月26日)判決

◆ 期間業務職員の不採用決定無効地位確認等請求

国・法務大臣事件

大阪地裁(平成31年4月24日)判決

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