労働判例ジャーナル90号(2019年・9月)

■注目判例

中学教員の自殺と校長の安全配慮義務違反

福井県・若狭町(中学教員)事件

■ポイント

 本件は,新任の中学教員(本件教員)が過重な業務に起因して精神疾患を発症した結果自殺に至ったことについて,校長の安全配慮義務違反が認められた事案である。本件自殺の公務起因性については,既に公務災害と認定されていたので,本件では校長の安全配慮義務違反の有無が争われた。もっとも,本判決が校長の安全配慮義務違反を認めた判断に同種事案と比較して理論的な特徴があるわけではない。本件は,近年長時間労働が問題となっている教員の過労自殺の事案であり,本件校長が時間外勤務命令をしておらず,自主的活動の範疇を超えた労働を本件教員が行っていたことの認識がなかったとの県・町側の主張について厳しい判断を加えているところが注目されるのである。
 働き方改革関連法に関する参議院厚生労働員会の附帯決議においても,教員の長時間労働の改善が求められたことにも示されるように,この問題は社会的にも重大な関心事となっている。しかし,学校教員のうちでも公立学校の教員は,私立学校などの教員と異なり,地方公務員であり,「公立の義務教育諸学校等の教員職員の給与等に関する特別措置法」(「給特法」という。)の適用を受けるため,時間外・休日労働および割増手当につき,一般の労働者とは異なる仕組みが適用されている。

年間購読料:29,700円(27,000円+税)※送料無料。労働判例ジャーナルは労働法EX+をご契約の方に毎月発行される月刊誌です

目次

◆ 中学教員の自殺と校長の安全配慮義務違反

福井県・若狭町(中学教員)事件

大阪地裁(令和元年5月29日)判決

◆ 他の教授らに対するハラスメントと停職・解雇の有効性

国立大学法人岡山大学事件

岡山地裁(令和元年5月31日)判決

◆ 学習塾講師の労働基準法上の労働者性

類設計室事件

大阪地裁(令和元年5月30日)判決

◆ 元組合員の徴収金及び組合費支払義務の成否

全日本建設交運一般労働組合兵庫合同支部事件

大阪地裁(令和元年5月29日)判決

◆ 自殺した医師の精神障害発症の業務起因性

国・萩労基署長事件

広島地裁(令和元年5月29日)判決

◆ 金員持出行為を理由とする懲戒免職処分の有効性

徳島県・徳島県教委事件

徳島地裁(令和元年5月22日)判決

◆ 私用・不適切メール等を理由とする解雇の有効性

日東精機事件

大阪地裁(令和元年5月21日)判決

◆ ハラスメント行為等を理由とする懲戒処分無効確認等請求

国立大学法人鳥取大学事件

広島高裁松江支部(令和元年5月20日)判決

◆ 職場の秩序紊乱を理由とする解雇の有効性

協同組合つばさ事件

東京高裁(令和元年5月8日)判決

◆ トラック運転手らの未払時間外割増賃金

アトラス産業事件

東京地裁(平成31年3月28日)判決

給付基礎日額の算定の誤りと休業補償給付支給処分取消請求

国・八王子労基署長事件

東京地裁(平成31年3月28日)判決

◆ 業績悪化による客室乗務員らに対する整理解雇の有効性

コンチネンタル・ミクロネシア・インク・ユナイテッド・エアーラインズ・イン事件

東京地裁(平成31年3月28日)判決

◆ 賃金減額・解雇・出向命令等の有効性

フジクラ事件

東京地裁(平成31年3月28日)判決

◆  組合員の人事考課引下げ・再雇用拒否等の不当労働行為該当性

国・中労委(医療法人社団更生会)事件

東京地裁(平成30年3月27日)判決

◆ 違法な配転命令及び謹慎処分に基づく慰謝料等請求

創価学会事件

東京地裁(平成31年3月26日)判決

◆ 競業及び引き抜き行為等に基づく損害賠償等請求

ムーセン事件

東京地裁(平成31年3月25日)判決

◆ 業務遂行能力不足等を理由とする降格減給及び解雇の有効性

末日聖徒イエス・キリスト教会事件

東京地裁(平成31年3月25日)判決

◆ 社員不適格等を理由とする解雇の有効性

ノキアソリューションズ&ネットワークス事件

東京地裁(平成31年2月27日)判決

一覧に戻る

年間購読料:29,700円(27,000円+税)※送料無料。労働判例ジャーナルは労働法EX+をご契約の方に毎月発行される月刊誌です