労働判例ジャーナル40号(2015年・7月)

■注目判例

打切補償と労災給付

学校法人専修大学事件
最高裁第二小法廷(平成27年6月8日)判決

■ポイント

 本件は,業務上災害(頸肩腕症候群)のため休業していた学校法人職員について,学校法人が,その「災害補償規程」にもとづき,労基法81条の定める打切補償(平均賃金の1200日分相当額,1629万3996円)を支払ったうえで当該職員を解雇したところ,当該職員が本件解雇を業務上災害によって療養中の労働者の解雇を禁止する労基法19条1項に違反し,無効であると主張して,学校法人に対し地位確認等を求めた事案である。
 労基法81条は,打切補償の対象となる労働者について,「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」であることを定めている。しかし,実際にはほとんどの労働者が労基法上の災害補償を受けているのではなく,労災保険法上の災害補償給付を受けている。そこで,原審判決のように「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」を文字通り解釈してそこから労災保険法上の災害補償の受給者を排除するならば,多くの場合,使用者は労基法81条の打切補償を行うことができず,療養中の労働者が治癒しない限り,当該労働者を解雇することができないことになる。しかし,それでは使用者の労基法の労災補償責任について労災保険という社会保険を設けている制度趣旨に沿うものではなく,使用者に過度の負担を課す結果となるのではないかという批判があった。
 本判決は,原審判決を破棄し,本件解雇について労契法16条の該当性があるかを審理させるため原審に差戻したものである。

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目次

【注目判例】

◆ 打切補償と労災給付

学校法人専修大学事件

最高裁第二小法廷(平成27年6月8日判決)

◆ 能力不足が理由の解雇無効地位確認等請求

あらた監査法人事件

東京地裁(平成27年3月31日)判決

◆ 地位確認請求とセクハラに基づく慰謝料請求

A’s Verite事件

東京地裁(平成27年3月31日)判決

◆市バス運転手の自殺と公務起因性

地方公務員災害補償基金事件

名古屋地裁(平成27年3月30日)判決

◆市職員の未成年女性に対するわいせつ行為と懲戒免職処分

多摩市事件

東京地裁(平成27年3月27日)判決

◆過重な業務体制や人間関係悪化に対する使用者の責任

アンシス・ジャパン事件

東京地裁(平成27年3月27日)

◆ コース別雇用制における性別による区別と不法行為責任

東和工業事件

金沢地裁(平成27年3月26日)判決

◆うつ病自殺に基づく損害賠償請求

西日本旅客鉄道(うつ病自殺)事件

大阪地裁(平成27年3月20日)判決

◆人事考課の違法性と差額賃金・慰謝料請求

京成不動産事件

東京地裁(平成27年3月18日)判決

◆賃金減額合意の有無と時間外労働割増賃金等請求

B・pro事件

東京地裁(平成27年3月18日)判決

◆会社に帰責性のある育休復帰後の不就労に基づく未払賃金支払請求

出水商事事件

東京地裁(平成27年3月13日)判決

◆ 賃金減額と管理監督者の該当性

マックインターナショナル・ニューマテリアル事件

東京地裁(平成27年3月6日)判決

◆ 会社に対する未払賃金等支払請求

グリーンベル事件

東京地裁(平成27年3月6日)判決

◆ セクハラ・アカハラによる停職処分取消請求

都留文科大学事件

東京高裁(平成27年3月4日)判決

◆ 除染作業に従事した作業員らによる未払賃金支払請求

セキトバ・裕徳・J.M.S事件

東京地裁(平成27年3月4日)判決

◆ 定額残業代をこえる割増賃金請求

リンクスタッフ事件

東京地裁(平成27年2月27日)判決

◆ 組合員に対する不利益取扱と不当労働行為

国・中労委(トクヤマ・トクヤマエムテック)事件

東京地裁(平成27年2月27日)判決

◆ 居酒屋の板前による時間外割増賃金等支払請求

空事件

東京地裁(平成27年2月27日)判決

◆ 看護師長らによるパワハラに基づく損害賠償請求

国家公務員共済組合連合会事件

福岡地裁小倉支部(平成27年2月25日)判決

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