労働判例ジャーナル138号(2023年・9月)

■注目判例

性同一性障害者の性自認に対応するトイレの自由利用

経産省職員事件

■ポイント

 本件は,性同一性障害を有する経産省職員(以下,「本件職員」という)が自己の性自認に対応するトイレの自由利用を制限する庁舎管理権に基づく経産省の措置を取り消すよう人事院に措置要求を求めたが,人事院がこの措置要求を認めなかったため,この人事院の判定の取り消しを求めたものである。1審判決(東京地判令元・12・12本誌96号2頁LEX/DB25580421)は,経産省の措置を違法として国・経産省に国家賠償法に基づく損害賠償請求を認め,また,人事院の判定を取り消した。しかし,原審判決(東京高判令3・5・27本誌113号2頁LEX/DB25569720)は,人事院に対する請求を棄却し,国・経産省に対する損害賠償についても一部を認めるにとどまった。そこで,本件職員が最高裁に上告受理申立てしたのが本判決である。
 本判決は,企業が性同一性障害を有する従業員に対する配慮を求められる中で,性自認に基づくトイレ使用というセンシティブな争点であり,社会的にも大きな注目を集めている。このことを予想してか,本判決には,5人の裁判官全員が補足意見を示している。これらを読むと,本件措置が激変緩和措置としてならば許容する余地があったものの,人事院の判定に至るまで4年10 ヶ月の間,経産省が状況を放置していた事実が否定的に評価されたことがわかる。

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目次

◆ 性同一性障害者の性自認に対応するトイレの自由利用

経産省職員事件

最高裁第三小法廷(令和5年7月11日)判決

◆ フランチャイズ加盟契約等に係る契約上の地位確認等請求

プレナス事件

札幌高裁(令和5年5月12日)判決

◆ 配転命令の有効性

摂津金属工業事件

大阪地裁(令和5年3月31日)判決

◆ 臨時大会の開催招集仮処分申立

南大阪交通労働組合事件

大阪地裁(令和5年3月27日)決定

◆ 医師の非違行為を理由とする懲戒解雇の有効性

社会福祉法人永芳会事件

大阪地裁(令和5年3月23日)判決

◆ 障害補償給付等支給決定取消請求

地方公務員災害補償基金大阪市支部長事件

大阪地裁(令和5年3月23日)判決

◆ 精神障害発症後の自殺の業務起因性

国・東大阪労基署長事件

大阪地裁(令和5年3月23日)判決

◆ イタリア文化会館元職員の地位確認等請求

イタリア共和国外務・国際協力省事件

大阪地裁(令和5年3月22日)判決

◆ ハラスメント及び安全配慮義務違反に基づく損害賠償等請求

医療法人社団慈昂会事件

札幌地裁(令和5年3月22日)判決

◆ 非違行為を理由とする懲戒免職処分の有効性

茨木市・茨木市消防長事件

大阪地裁(令和5年3月16日)判決

◆ うつ病エピソード発症後の自殺の業務起因性

国・西宮労基署長事件

大阪地裁(令和5年3月9日)判決

◆主任技師長等の地位確認等請求

日立製作所事件

東京地裁(令和5年2月22日)判決

◆ 給料相当額の損害賠償請求

喜茂別町事件

札幌地裁(令和5年2月9日)判決

◆ 整理解雇の有効性

リビングエース事件

大阪地裁(令和5年2月3日)判決

◆ 賃金減額不同意に基づく未払賃金等支払請求

海外商事事件

東京地裁(令和4年11月30日)判決

◆ 上司のパワハラに基づく損害賠償等請求

東京精密事件

東京地裁(令和4年11月30日)判決

◆ 未払賃金等支払請求

ライクスタッフィング事件

東京地裁(令和4年11月18日)判決

◆ 退職合意無効地位確認等請求

大央事件

東京地裁(令和4年11月16日)判決

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