「20条裁判最高裁判決-大阪医科薬科大学事件」

 最高裁判所第三小法廷は、本年10月13日、労働契約法旧20条に基づき、期間の定めがあることによる不合理な労働条件か否かが争われた大阪医科薬科大学事件(以下「①」)及びメトロコマース事件(以下「②」)について、それぞれ判決を言い渡しました。いずれも、控訴審判決(①大阪高裁平成31年2月15日判決、②東京高裁平成31年2月20日判決)で示されていた判断の一部(①賞与及び私傷病欠勤補償、②退職金)が会社側の主張を容れる形で変更されました。いわゆる20条裁判においては、ハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件(ともに最二小判平成30年6月1日)に続く最高裁判決となります。
 
 本コラムでは①について紹介します。
 
 この事件は、1年間の有期労働契約を締結し、大阪医科大学(当時)の薬理学教室内の秘書業務に従事していたアルバイト職員(ただし、これは大学内の職員区分呼称であり、第一審原告の所定労働時間は正職員と同一(フルタイム)でした。)の労働条件の不合理性が争われたものです。第一審原告(平成25年1月採用、平成28年3月退職、ただし、平成27年3月に適応障害と診断されたため、以後退職日まで出勤無し。)は、賃金(時給制・月給制の差異)、賞与、年休日数等の様々な労働条件について不合理だと主張しましたが、第一審(大阪地裁平成30年1月24日判決)は請求をすべて棄却しました。
 
 これに対し、控訴審は、賞与、夏期特別有給休暇(7月から9月までの間に5日間)及び私傷病欠勤補償(欠勤開始から6か月間は給料月額全額支給、その後は休職発令し休職給として標準給与の2割支給)の3つについて、アルバイト職員を対象外とすることは不合理である(ただし、賞与は正職員の60%を下回る部分、私傷病欠勤補償は雇用期間1年の4分の1を下回る部分)としました。
 
 このうち、賞与と私傷病欠勤補償のみが最高裁の審理対象となり(よって、不合理とされた夏期特別有給休暇を含むその他の労働条件については、控訴審の判断が確定しています。)、いずれも、不合理でないとの結論が示されました。
 
 最高裁は、まず、不合理性を検討する際の比較対象について、「第1審原告により比較対象とされた教室事務員である正職員」という表現を繰り返し用いています。これは、控訴審が「同一の使用者と同一の労働条件の下で期間の定めのない労働契約を締結している労働者全体」を比較対象とすべき、「比較対象者は客観的に定まるものであって、有期契約労働者側が選択できる性質のものではない」との判断を示していたことを意識したものと思われ、この判断を事実上否定する趣旨と解されます。その上で、教室事務員である正職員とアルバイト職員とは、職務の内容も配置の変更の範囲も相違していることに加え、「その他の事情」として、アルバイト職員には契約職員及び正職員への段階的な登用試験制度が設けられていたことなどを読み込み、不合理でないと判断しました。
 
 賞与も私傷病欠勤補償も、企業ごとに制度設計は様々ですので、今回示された判断はあくまでこの事案に関しての判断となります。本件のアルバイト職員は、職務の内容が相当に軽易であったといえること、また、更新状況に照らし、長期雇用を前提とした勤務を予定しているとは言い難いこと(実際に第一審原告の在籍期間も3年余りでした。このあたりは、メトロコマース事件の第一審原告らとは状況が違うところです。)などが前提となっていますので、これらの事情が異なれば、不合理性判断の結論が変わる可能性もあります。ただ、本件では、賞与が、人事考課等の属人的要素に拠らず、正職員であれば一律の支給条件であったことや、フルタイム勤務であるのに、年収額が同時期に新規採用された正職員の約55%であったことも踏まえても、賞与不支給は不合理ではないと最高裁が判断したことは、実務に少なからぬ影響を与えることになるでしょう。
 
 なお、労働契約法20条は、働き方改革関連法により、本年4月1日より、いわゆるパートタイム・有期雇用労働法8条に取り込まれました。最高裁が、「他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて・・・当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき」、「第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと」などと述べている点は、パートタイム・有期雇用労働法8条の「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」との文言につながるものであり、今回の最高裁の判断は、今後、パートタイム・有期雇用労働法8条の解釈においても参照されていくことになると思われます。

 

(第一芙蓉法律事務所 弁護士 町田悠生子)

 
※大阪医科薬科大学事件 判決文(最高裁判所ホームページより):こちら
 

(2020年10月14日)

 
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