令和6年度「過労死等の労災補償状況」の公表
本年6月25日、厚生労働省が令和6年度「過労死等の労災補償状況」を公表しました。厚生労働省は、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数(令和6(2024)年度中に労災保険給付の請求(いわゆる労災申請)がなされた件数)や、労災保険給付の支給決定件数(令和6年度中にいわゆる労災認定がされた件数。同年度中に労災申請されたものとは限りません。)などを、毎年この時期に年1回公表しています。
まず、令和6年度の労災請求件数について、脳・心臓疾患に関しては1030件(令和5(2023)年度より7件増加)、精神障害に関しては3780件(令和5年度より205件増加)となり、いずれも過去5年度(令和2(2020)年度~令和6(2024)年度)で最多となりました。5年前(令和2年度)は、新型コロナウイルス禍の影響もありましたので、単純比較はできないものの、脳・心臓疾患は784件、精神障害は2051件でしたから、請求件数自体の増加傾向が読み取れます。
次に、支給決定件数について、脳・心臓疾患に関しては241件(令和5年度より25件増加)、精神障害に関しては1055件(令和5年度より172件増加)となり、こちらも、いずれも過去5年度で最多となりました。5年前(令和2年度)は、脳・心臓疾患は194件、精神障害は1055件でした。
特に精神障害の件数増加が顕著です。支給決定件数(いわゆる労災認定を受けた件数)の増加状況は上記のとおりですが、決定件数(支給決定と不支給決定の両方を含む件数)自体が前年度より900件程度も増えています。精神障害の労災認定基準は、令和5年9月1日より新基準となり(同日適用開始)、医学意見の収集方法を効率化し判断を早期化するべく、専門医3名の合議による意見収集が必須な事案を減らし、特に困難なものを除いて専門医1名の意見で決定できるよう変更されました。令和6年度は、全期間においてこの変更後の運用が適用された初めての年度となりましたので、これも、決定件数の増加の一要因となっているのではないかと思われます。
このほか、精神障害の新たな認定基準では、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)が心理的負荷評価表の具体的出来事に加えられました(負荷の程度は原則「中」です)。令和6年度において、支給決定件数の多い具体的出来事は、多い順に、①パワーハラスメント(224件)、②仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった(119件)、③カスタマーハラスメント(108件)、④セクシュアルハラスメント(105件)でした(複数に該当している件数も含まれます)。パワハラは、令和5年度も最も認定件数が多く、セクハラも同年度において上位でしたので、ハラスメントが精神障害の発生に寄与している実態が容易に読み取れます。そして、カスハラも、新設ながら高水準となっていますので、カスハラ対策の必要性が労災補償状況からも感じられるところです。特にパワハラやセクハラは、労災認定基準において、会社による対応状況が心理的負荷に影響するものとされている点にも十分留意しつつ、ハラスメント対策を今後も着実に行い、心身ともに健康的な職場づくりを進めていくことが重要といえます。
~参考資料~
※厚生労働省Webサイト「『過労死等の労災補償状況』を公表します」:こちら
※厚生労働省Webサイト「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」:こちら
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