労働施策総合推進法等改正の成立-カスハラ・就活セクハラ対策ほか
本年6月22日、通常国会(第217回常会)が閉会となりましたが、開会中、労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)が6月4日に成立し、6月11日に公布されました。これにより改正されるのは、労働施策総合推進法のほか、男女雇用機会均等法と女性活躍推進法です。
改正の趣旨は、「多様な労働者が活躍できる就業環境の整備を図るため、ハラスメント対策の強化、女性活躍推進法の有効期限の延長を含む女性活躍の推進、治療と仕事の両立支援の推進等の措置を講ずる」ことです(後掲の法律の概要より引用)。
まず、労働施策総合推進法の主な改正内容は、①職場における労働者の就業環境を害する言動(ハラスメント)に関する規範意識の醸成がなされるよう、国は必要な啓発活動を積極的に行うこと、②事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について必要な措置を講ずるよう努めること及びそれに関する指針の制定、③事業主についてカスタマーハラスメントに関する防止等の措置義務化及びそれに関する指針の制定、④カスタマーハラスメントに関する国・事業主・労働者・顧客等の責務の制定、です。
次に、男女雇用機会均等法の主な改正内容は、⑤事業主について、いわゆる就活セクハラに関する防止等の措置義務化及びそれに関する指針の制定、⑥就活セクハラに関する国・事業主・労働者の責務の制定、です。
最後に、女性活躍推進法の主な改正内容は、⑦基本原則に、女性の職業生活における活躍の推進にあたり留意すべき事項として女性の健康上の特性を追加、⑧女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針に、職場において行われる就業環境を害する言動に起因する言動に起因する問題の解決を推進するために必要な措置に関する事項を追加、⑨プラチナえるぼしの認定要件に、事業主が講じている就活セクハラ防止措置内容の公表を追加、⑩女性の職業選択に資する情報の公表義務の適用拡大、具体的には、101人以上の企業について、男女間賃金差異と女性管理職比率を必須の公表項目とすること、その上で、101人以上の企業についてはさらに1項目を、301人以上の企業についてはさらに2項目を公表すること、⑪女性活躍推進法の有効期限を10年間延長(2036(令和18)年3月31日まで)、です。
施行期日は、②⑩は2026(令和8)年4月1日、③④⑤⑥⑨は公布日から起算して1年6か月以内の政令で定める日、残りの①⑦⑧⑪は公布日(つまり施行済み)です。
カスハラや就活セクハラに関しては既に各所で紹介されていますので、ここでは、健康上の問題や特性への留意(②⑦)に焦点を当てたいと思います。これらは努力義務等に留まっていますので、今回の改正で直ちに企業に対応義務が生ずるものではありませんが、特に女性の健康上の特性への留意が今後の人事施策の一つの視点に加わるであろうことは大変望ましいことと考えています。
本年6月10日には、政府がいわゆる「女性版骨太の方針2025」を決定したところですが、その中でも、仕事と健康課題の両立支援が含まれており、抱える健康課題の傾向が男女で大きく異なること(課題の幅広さのみならず年代の幅広さも)がグラフで図示されています(後掲の説明資料参照)。
これまで女性は、日々の、または、相応の期間にわたる健康課題であっても、極力「隠して」「気付かれないように」仕事に励むことが多い(常に体調の変化がつきまとうことに慣れてしまっている面もある)のではないかと思います。女性の「我慢」だけに頼らず、女性が体力的・精神的負担を少しでも軽くして一層活躍できる就業環境が、将来的に、様々な知恵や技術の力を結集して整っていくことに期待しています。
~参考資料~
※厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等 の一部を改正する法律の概要」:こちら
※厚生労働省リーフレット「ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内」:こちら
※「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充 実等に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和7年6月11日・基発0611第1号、雇均発0611第1号):こちら
※内閣府男女共同参画局「女性版骨太の方針2025」の説明資料:こちら