労働判例ジャーナル78号(2018年・9月)

■注目判例

知的障害及び学習障害を有する新入社員の自殺と会社の安全配慮義務

富士機工事件
静岡地裁浜松支部(平成30年6月18日)判決

■ポイント

 本件は,知的障害及び学習障害を持つ高卒新規採用の従業員(以下,「本件従業員」とする。)が入社後2か月弱で自殺したことにつき,その両親が,本件従業員の自殺が会社による障害への配慮を欠く対応等が原因であるとして,会社の安全配慮義務違反及び注意義務違反を理由に損害賠償などを請求した事案である。
 本件は,本件従業員のように知的障害及び学習障害がある場合,その特性を配慮して会社にどのような安全配慮義務が認められるかを検討するために注目すべき事例と言える。
 本判決は,勤務状況などから会社が本件従業員について注意すべき徴表がなかったことから,結果的には,業務の心理的負担が自殺を招く程度であったことを予見できなかったとしたが,その認定を見るならば,知的障害のある従業員について,相当程度高度な配慮を前提にしているとみることができる。
 本件では,直接言及されていないが,障害者雇用促進法は,事業主に対し「雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備,援助を行う者の配置その他必要な措置」講じることを義務付けている(36条の3)。このことは,会社の安全配慮義務の内容の検討においても十分に考慮されることになろう。

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目次

◆ 知的障害及び学習障害を有する新入社員の自殺と会社の安全配慮義務

富士機工事件

静岡地裁浜松支判(平成30年6月18日)判決

◆ 雇止め無効地位確認等請求

雇止め無効地位確認等請求事件

東京地裁(平成30年6月14日)判決

◆ パワハラによる適応障害発症と休職期間満了後の退職可否

公益財団法人周南市医療公社事件

山口地裁周南支部(平成30年5月28日)判決

◆  元学生らのパワハラ等に基づく損害賠償等請求

国・法務大臣(海上保安大学校パワハラ)事件

福岡地裁小倉支部(平成30年5月24日)判決

◆ 休職期間満了時の退職扱い無効地位確認等請求

神奈川SR経営労務センター事件

横浜地裁(平成30年5月10日)判決

◆ 教員の大阪市に対する校外研修実施決定取消等請求

大阪市・大阪市教委事件

大阪地裁(平成30年5月9日)判決

◆ ダンプカー運転手の時間外労働割増賃金等支払請求

成友興業事件

東京地裁(平成30年4月27日)判決

◆ 懲戒(降格)処分無効と支店長の地位確認等請求

大東建託事件

東京地裁(平成30年4月26日)判決

◆ 人事委員会のした懲戒処分審査請求棄却裁決取消請求

神奈川県・神奈川県人事委員会事件

東京高裁(平成30年4月24日)判決

◆ 通勤費超過受給に対する不当利得返還請求

東日本電信電話事件

東京地裁(平成30年4月23日)判決

◆ 水俣病補償協定上の地位確認請求

チッソ事件

大阪高裁(平成30年3月28日)判決

◆ セクハラを理由とする懲戒停職処分取消請求

福島県・県教委事件

福島地裁(平成30年3月27日)判決

◆ 酒気帯び運転等に基づく懲戒免職処分取消請求

鳥取県・鳥取県警察本部長ほか事件

広島高裁(平成30年3月26日)判決

◆ 医師の雄武町に対する免職処分取消等請求

雄武町事件

旭川地裁(平成30年3月6日)判決

◆ トラック運転手の心臓疾患発症に基づく損害賠償等請求

ハヤト運輸事件

福岡地裁(平成30年2月14日)判決

◆用務職員の両手親指CM関節症発症の公務起因性

地公災・地公災東京都支部長事件

東京地裁(平成30年2月14日)判決

◆ 雇止め無効地位確認等請求と会社による不当利得返還請求

YIDATEC日本事件

東京地裁(平成30年2月1日)判決

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